メイド服とオオカミ少年



(*高校卒業後、大学生。付き合っ瑛主のいちゃいちゃです。ご注意!)
(*某さまのとても素敵なイラストにときめきまして、便乗です)(す、すみません;;)(本当に!)
(※このお話のおいしい部分(メイド服、ナチュラルに襲いオオカミな佐伯さん)は全て某さまが元ネタです)(私は本当に便乗しただけなのですよ……ごめんなさい……(顔を覆いながら))





「瑛くん、おかえりなさーい!」

アパートのドアを開けたらメイドがいた。
断っておくけど、そんなものを雇った覚えは無い。この格好なら「瑛くん」じゃなくて寧ろ「ご主人様」だろ、だとか、玄関先で大声を出すと近所迷惑だとか、諸々言いたいことがこみ上げたけど、とりあえず一言。

「……………何、そのカッコ…………」

黒地のワンピースに真っ白なエプロン……いわゆるメイド服を着ているのはあかりだ。
一日の講義が終わって、それじゃあ一緒に夕ご飯を食べようと提案された。野暮用を済ませるためにあかりだけを先に帰した。じゃあねと言って手を振ったあかりは普通の服装だった。

なのに、どうして今はこんな格好をしているんだ。ドアを後ろ手に閉める。こいつのこんな格好なんて、他の人間には見せられないし、そもそも見せたくない。
人の葛藤を他所に当人はこともなげに答える。

「メイド服だよ」
「いやそれは分かる」

問題は、なんで今ここでそんな服を着ているんだ、という話、だ。
古式ゆかしい伝統的なメイド服とは違う。最近よくテレビや何やらで目にする、男達の夢や妄想やらを詰め込んだようなエプロンドレスタイプのメイド服。スカートは膝丈で、裾にはレースのフリルが覗く。
部屋の中に移動しながら、あかりは小首を傾げて言う。

「瑛くんはこういうのが好きかな、と思って」
「はぁ!?」
「…………なーんて」

そうして軽く舌を出してイタズラっぽく笑う。――こいつ……。
指先でスカートの裾をわずかに持ち上げながら、あかりは言った。

「これは学園祭の衣装」
「学園祭の?」
「サークルの出店。お茶とお菓子を出すの」
「この格好で?」
「そ」

こともなげに頷く。思わず頭を抱えた。

「…………メイド喫茶とか…………なんつーベタなことを…………」
「ベタ?」
「誰だよ発案者。つか氷上と赤城も同じサークルだろ。どっちも止めなかったのかよ」
「うーん……」

あかりは人差し指をあご先にあてて視線をめぐらせた。

「氷上くんは『メイド服か! それは素晴らしく伝統的な衣装だね!』って」

ご丁寧に、わざわざ氷上の声真似つき。なかなか特徴を掴んでいるけど、今は感心してる場合じゃない。

「すごく感激してたよ」
「……明らかに真面目の方向性を間違えてるだろ。……赤城は?」
「『いいね、面白そうだな』って」

――あいつ!
氷上は多分、何か勘違いをしているのだろうし、赤城は(本人も言ってるけど)完璧面白がっている。サークルの中心人物二人がそろって賛成している訳で、ということはつまり止められる人間がいない。それでこのメイド服か。

もう一度メイド服姿のあかりに目を向けた。目が合うと、あかりは軽く微笑んでまた小首を傾げてみせた。明るいブラウンの髪が首筋で揺れる。肩口を飾る、エプロンのフリルにさらさらと髪が触れあう。

「どうかな。似合う?」
「……………………その服ってさ」
「うん?」
「脱ぎ着しにくそうだよな。一人で着れなさそうじゃん」
「そんなことないよ?」

――現に今こうして着てるじゃない。そう言って両手を軽く広げてみせた。「まあ、着るのはな」と頷いて続ける。

「問題は脱ぐときだよな。一人で脱げなかったら困るだろ」
「簡単だよ、ほら」

あかりは素直に頷いて胸元を飾るリボンに手をかけた。――はい引っかかった。
こっちの狙いに全く気がついていないらしいあかりは、リボンをほどいて、ブラウスのボタンを手際よくはずしていった。白いブラウスの胸元が大きく開いて素肌が覗いた。全く、何て迂闊な。
胸元をくつろげて、腕を後ろ手に回して今度はエプロンを外そうと軽く顔をうつむけているあかりに近寄った。相手はまだ接近に気がついていない。背中の結び目を外そうとして後ろ手に回したあかりの手首を掴んだ。軽く上に掲げて万歳の格好。あるいは、降参の格好。

「瑛くん?」

あかりは一瞬ぽかんと俺を見上げた。大きく瞬きをして、しかけられた罠に気がついたのか、途端、体を強ばらせた。――うん、遅いんだよ、おまえは。
顔を赤くさせてあかりがわめく。

「えっ、ちょっ、信じらんない。だましたね!?」
「自分で脱いだんだろ。俺は何もいってない」

拘束していた腕を解放してやる。そのまま距離を詰める。あかりは自由になった両手で胸元を隠すと、距離を取ろうとして、じりじりと後ろへ逃げた。必然、ベッドに背中を押しつける格好になって、そのまま覆い被さると、あかりの逃げ場所は完全になくなった。――はい、つかまえた。
長い睫毛に縁取られた大きな瞳が警戒心で揺れていた。顔を寄せると、真っ赤になって顔を背けた。頬どころか、首筋まで赤く染まっている。思わず噴き出してしまった。

「……おまえ、真っ赤になってる」
「誰のせいだと――――んっ!」

咄嗟に顔を上げたあかりにキスをした。はじめ固く強ばっていた体の緊張が唇を合わせているうちに解けていく。息継ぎに顔を離すと、うるんで熱を持った瞳が見上げていた。熱い吐息を頬に感じる。引き寄せられるようにもう一度キスをしようとしたら、手のひらで軽く胸を押された。何、と目顔で訊くと、あかりは顔を赤く染めたまま、ためらいがちに囁いた。

「……服、このままだとしわになっちゃう」

――借り物だし、と小声で付け加えた。突っ張った腕の向こう側で、ブラウスの前は大きくはだけて白い谷間が見えていた。大ぶりのフリルをあしらわれたエプロンの肩紐はずれて落ちてしまっている。ペチコートからは華奢な膝頭が覗く。

「分かった」

半身を起こして距離を取ると、あかりは安心したようにため息をついた。加えて笑顔を見せると、あかりも同じようにニコリと笑った。

「脱がせてほしいんだな」
「…………違うよ!」

あかりは半分悲鳴のような声を上げた。

「何が違うんだよ。まあ、そのままの格好もそそられるけど、これは借り物だし、しわになったり、汚したりしたらダメだもんな。ということは、こんな厄介な服なんて脱いじゃえば全部解決する。はい万歳」
「しないよ! 脱ぎません!」

腕を掴んで万歳の形に上げさせようとすると、じたばたと抵抗した。そんな風に動くとそれこそしわになると思う。思ったまま忠告する。

「あーもう、動くとしわになるぞ」

すると、ぴたりと動きを止めた。素直で大変よろしい。

「こんな格好で煽るおまえが悪い。……分かってんのか?」
「わ、分かんないよ! 瑛くんが勝手にいろいろしてるんでしょ!」

しわになるのを意識してか、さっきみたいに抵抗はしないけど、口は減らない。

「いい加減観念しろ。往生際が悪いぞ」
「て、瑛くんの、スケベ! メイド服好きの変態!」

随分な言いようだ。

「違う」
「違わないでしょ。こ、こんなカッコだから、変なことするんでしょ!」

目を伏せて、手で胸元を隠しながらあかりは言った。そのまま顔をうつむけたあかりの肩をつかむと、手のひらの下であかりの肩が軽く跳ねた。抵抗の一つの理由が少し分かったような気がした。

「違うよ」
「…………何が違うの」
「こんなことをするのは、好きだからだよ。決まってるだろ」

あかりが顔を上げた。顔が真っ赤だった。

「…………そういうこと、さらりと言うのはズルイと思う……」

ずるくて結構。だってまあ、本当のことだし。

「あかり」

名前を呼ぶと、軽く睨んだまま、観念したように目蓋を伏せた。それを了承と取って、もう一度口づけた。触れた唇は抵抗の言葉を洩らすこともなく、ただ、やわらかかった。




(おしまい!)
(デイジーの所属サークルの活動がとても謎。すみません)
(2013.02.23)(にゃんにゃんの日に間に合わなかったです……orz)

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