さよなら、長い間


※佐伯くんルートで3年目1/31以降のデイジー独白です。




そんなつもりはなかったのに、また海辺に来てしまった。冬の海は泳ぐのには向かない。第一、遊泳禁止の期間中。せいぜいが、浜を散歩するアベックがいるくらい。

「……カップル、かな」

いつかのやり取りを思い出して、言い直してみる。思いのほか、自分の口調が冷えていて驚いてしまった。理由は寒さだけのせいではないはず。冷たい風にさらされて、頬が冷たい。

あれから佐伯くんには会っていない。
季節は冬で、場所は、この海辺。海鳴りと髪をかき混ぜる風の音が、ごうごうと音を立てて耳を切るように吹いていた。
この場所で、佐伯くんは「さよなら」と言った。
わたしの目を真っ直ぐに見詰めて。もう決して会わない、という意思をはっきりと伝えるように、二つの目を悲しげに伏せ。――もう会わない。その通りだ。“さよなら”って、そういう意味の台詞だ。佐伯くんは自分が口にした言葉どおりに行動した。わたしはまだ、彼のその言葉の意味をはかりかねて、途方に暮れている。

「……さよなら」

もう何度も口にした言葉だ。何かの折に。去り際に、別れ際に、例えば、登下校時のあいさつに、本当に何気なく、何度も口にしたことがある。あった、のに。
さよならが、こんなに寂しい言葉だったなんて、知らなかった。本当の“さよなら”の響きはなんて、悲しくて寂しいものなんだろう。

佐伯くんは、わたしにはっきりと「さよなら」と言った。彼は心を決めたのだと思う。だから、あんな風に面と向かってお別れを言えた。
わたしにはまだ、出来そうにもないことだった。上手なお別れの仕方を、さよならの言い方を見つけられたら、わたしも終わらせることが出来るのだろうか。




2011.10.09
*いつまでも、さよならの方法を見つけられない。

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