会いにいくまぼろし


*こちらはshortの続き物会いにいくまぼろしのお蔵入りしてしまった第一話です。理由があってお蔵入りしましたが、こちらにサルベージ。




夢を見ているんだと思う。あの頃の夢。慌ただしくて、性急で、周りが全然見えてなかった、あの頃の夢を。

「佐伯くん、どうしたの?」

くるん、機敏な動作で踵を軸にターン。短く切りそろえた茶色い髪が頬の周りで、ふわりと揺れる。あかりが例の黒目がちな丸っこい目で見つめ返してくる。――別に、何も。あの頃の口癖が口をついて出る。何かを誤魔化すように曖昧に返事をするのは、もういい加減にしようと思っていたのに。少なくとも、あかりの前では、もう、という話。俺も俺で、多分、この夢に飲まれそうになっているんだろうと思う。

小動物めいた目が不思議そうに俺を見つめている。心持ち首を傾げて。……何とも言えない気持ち。少し、胸が締め付けられるような。多分、変わってしまった色々な事を意識させられてしまったせい。それでも、安心させたくて少しだけ、笑顔を返した。おそらく苦笑いにも失敗したような笑い方になっていた気がする。

「何でもないよ」

多分、本当に、何でも。夢ならきっと覚める。そんなの当たり前のことで、何も強く意識しなくたって当たり前の事実。それなのに、随分、胸が痛むのは何でかな。……多分、先を歩くあかりがあんまりきらきらしてるせいかな、と思う。何も海から届く夕日の照り返しを受けて、というだけの理由じゃない。昔からの刷り込みで、俺にはあかりが眩しく見えて仕方ない。そんなの何も今に限った話じゃないけど、これは今だから、特に。尚更に。





[title:にやりさま] 2011.07.20
*遅れてきた2011年リアルタイム(詐称)瑛誕記念話。
*例によってそこはかとなく、パラレルでSFちっく。ちょっと続きます。


**……だったのですが、その後書き進めていくうちに、佐伯くんとデイジーが放課後一緒に帰宅するシーンまで書けなくなったので、こちらの冒頭のお話は敢え無くお蔵入りとなったのでした。とってもセンチメンタル過ぎる文章ではあるのですが、個人的に凄く好きな文だったので、勿体なくてmemo logにサルベージしました。び、びんぼうしょう、とも言う……;;(2012.04.06追記)

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