瑛主←モブ+@ その2


※さき子さん宅の瑛主←モブ文に便乗のほぼ三次創作ご注意です。



こつん。
上履きのつま先に何かが当たって転がった。拾い上げてみる。
……使いかけで角が丸まった消しゴム。何の変哲もない、学校の購買で売っている消しゴム。

「あっ、拾ってくれたんだ、ありがとう!」

背中に屈託のない声が当たって弾けた。
振り返ってみると、声の印象のまま笑いかけている女子生徒。……ああ。何だ、君か。前の席に座る友人の視線がやたらと気になって仕方がない。

「これ、君の?」
「うん、そう!」

屈託のない声、笑顔、返事。そこらじゅうの男を巻き込んで、恋に落としてしまいそうな、何とも罪作りな笑顔。――なるほど、これはモテるだろうなあと、受けた印象とは正反対に鼻白んでしまう。

そこで突然デジャブ。似たようなシチュエーション。そんな記憶がフラッシュバック。あれは……入学したて、皆が皆、卸したてのピカピカの制服に身を包んでいた頃のこと。



こつん、何かが転がってきて、これまたまっさらな上履きにぶつかって、止まった。
シャープペンか、ボールペンか、万年筆の類。……流石に、最後のは無いかな、でも分からない。あの頃の彼女は割と変わり種な女の子だったので。足元に転がった、細長いペンの類を拾い上げる。
飾り気も何もない。元気な声が俯けた眉間の辺りにぶつかって弾ける。

「あっ、拾ってくれたんだ、ありがとう!」

顔を上げる。声の印象のままの笑顔が前方にあって、ちょこちょこと駆け寄ってくる。……あれだね、何だか小さくてあどけない愛玩動物に似てる。

「これ、君の?」
「うん、そう!」

口は標準よりも少し大きめ。その口を全開の笑顔の形にして頷く。
そっか、とこっちも頷きを返す。

「はい、どうぞ」
「ありがとう!」

返してもらったペンを握って、お礼を言う顔は、やっぱり何かの愛玩動物のようで、うっかり頭を撫でたくなった。いやまあ、流石にしなかったけど。



いま目の前にいる子は、あの頃の面影を残しながら、何だか、別の女の子のよう。何故だか分からないけど、少しだけ、残念だと思った。

「田中!」
「な、なんだよ!?」

前の席に座って、こっちに背を向けて、でも俺らの会話に耳を集中させていただろう田中を呼ぶ。何事だ、という顔をして振り返った田中の手のひらに拾った消しゴムを落とし込む。

「はい、これ」
「いや、渡す相手違うだろ」
「いや、なんとなく……」
「なんとなくって、なんだよ」

――ふふっ。
田中と俺の中間地点、ちょうど真ん中から笑い声が降ってくる。ころころと笑う彼女。

「ご、ごめん、何だか、面白くて……」
「うん、面白いよね、田中って。これから宜しくしてあげてね?」
「うん!」
「いや、鈴木、おまえ、何言って……えっ?」
「えっ?」

あーあー。罪作り。憐れな友人は耳まで赤い。我らがマドンナはきょとんとした顔をしている。そこに突然、彼女の名前を呼ぶ第三者が現れる。ここから一番遠い場所にいて、でも、この状況の意味を誰より的確に把握して危惧しているだろう、彼。そいつはプリンスの仮面を装着して彼女の名前を呼ぶ。もうそのカムフラージュは要らないだろうに(だって、もう周知の事実だ)、そのことには気づいてない。

「ん、なあに? 佐伯くん?」
「ちょっと、待って」

そのまま彼の元に走り出しそうになってる彼女を呼び止める。

「え?」
「忘れ物」

ちょいちょい、と田中を指さす。厳密に言えば、田中の手の中、拾った彼女の消しゴムを。

「あっ、そうだった!」

立ち止まって、踵を返して、またこっちに走り寄る。

「ごめんね、拾ってくれて、ありがとう」

ご丁寧に田中と俺に向けて笑顔、謝罪、お礼。入学したての頃の笑顔がブレて重なる。妙に胸が痛いのは、まあ、気のせいじゃない。こんなのは、田中と同じ気持ちじゃなくて、ただのノスタルジー。今はもうない、失われてしまったものへの惜別の気持ち。

プリンスの元に戻って行った彼女の背中を見つめる田中は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「……余計な世話焼いてんなよ」
「俺、思うんだけど」

背中を向けて何か小声で話し合う二人。肩を寄せ合って何とも仲睦まじい。何だよ、もう付き合っちゃえよ、というエールは送ってやれそうにない。それは隣りの友人に余りにも酷だ。

「欲しいなら、欲しいって言わないとダメだろ」

それに対し「アホか」という返事。

「言えるわけないだろ……」

何を話し合ってるのか、視線の先でプリンスが苦虫を噛み潰したような顔から、一転、堪え切れないように笑った。ちょっと見たことがないくらい安閑とした、柔らかい表情だった。
あんな表情が出来るんだ、と今更ながら、関心。彼の隣りで、彼女も幸せそうに笑っている。お似合いのカップル。まるであらかじめ決められていたかのように。……しかし、何に?
「言えるわけ、ないだろ」と苦虫を噛み潰したままの友人の声が、もう一度。何と答えたものか、答えあぐねて、苦虫を噛み潰した顔が伝染、口の中が苦虫味に染まる。あーあ。何とも、ぞっとしない話だね。






2011.06.05
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田中(仮)くん救済を目指してエンヤコラ!したんですが、結局不憫になりましたたた;;
ごめんね、ごめんね、田中(仮)くん…………!!!!
とととととというか、さき子さん何度も何度も絡んでごめんなさい……!!! 
さき子さん宅の瑛主←モブが好きです。片思いしてる男の子の描写が、本当に本当に眩しくて胸締め付けられるのです。

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