孔花ちゃんSS
(※恋戦記)

「男ってのはいつでもかっこつけたいもんなんだよby.ほうすう先生」
:



(*某さまの漫画に滾りまして……いきなり書いてしまって失礼しました〜><;)



花の髪が跳ねていた。
細くて、見るからに柔らかそうなあの子の髪はいつも無造作に下ろされていて、けれど花は身だしなみに無頓着という訳じゃない。女性は髪を長く伸ばして、まとめるなり結わえるなりするもの――そういうこの国の慣例とは無縁な花は花なりに(彼女の国のしきたりに合わせて)身なりに気をつけているようだ。下ろしたままの髪が乱れれば、自らの手で直していた。なのに、どうして。
寝ぐせだろうか。どうしても跳ねたままで直らないのだろうか。それなら、少しは恥かしそうな素振りを見せてもおかしくないはずなのに、花は心持ち誇らしそうにしている。
しかし、ボクと目が合った途端、花が見るからに固まった。まるで悪戯を見つかった子供のように見えた。
「……花」
「は、はい」
「その髪、どうしたの」
「ええと……」
落ち着きをなくしたように、花は跳ねた髪に手をかざした。前髪とつむじの境目から一筋、髪が跳ねている。その位置には見覚えがある。
「……師匠の、真似、です」
「……どうして、また」
そんなものを真似したところで何か得があるとも思えない。言いにくそうに口ごもっていた花が根負けしたように口を開く。
「師匠みたいになりたくて……」
「それは分かるよ」ボクがまだ“亮”の名で呼ばれていた頃にも、花は、花が言う“師匠”に憧れていたようだったから。「でも、それは形から入るものじゃないでしょ?」
「それはそうなんですけど……」
「けど?」
花は跳ねた髪を指さして言う。
「これ、アンテナみたいだなあって思うんです」
「“あんてな”?」
「電波……ええと、良い“気”みたいなものを集めるもの、です」
「良い気、ねぇ……それで君はボクとおんなじ場所の髪を立てれば、ボクみたいになれると思ったの?」
「は、はい……」
こくり、と花が頷く。頬の高い部分が淡く染まっている。
「……早く、いろいろなことが出来るようになって、師匠の役に立てるようになりたいんです」
――全く、この子は……。
深くため息をつく。
「……何をやってるんだい、君は」
顔を俯ける。首を数度横に振る。それから踵を返して離れる。背中に花の視線を感じる。ため息をついた瞬間の、傷付いたような顔が見えてしまった。でも振り返ることは出来ない。こんな顔は見せられない。歩くうちに感情がこぼれそうだ。――ああもう、あの子は! 本当に、どうしてこう……! こう…………可愛いことを言うんだろう!
角を曲がって外壁に額をつけた。こんな顔は誰にも見せられないし、見せたくない。特に、花には見せられない。花の足枷になるようなことはしない。決して。
でも、傷付いたような顔をしていた。
それこそ、望ましくないことのはずなのに、あんな顔をさせてしまった。
ふと、地面に花が咲いているのが見えた。薄桃色と淡い黄色の花。体を折って、その二輪を摘む。そのまま踵を返して、花の元へ戻った。花はまだ髪を跳ねらかしたまま、心なしかしおれた様子で肩を落としていた。そんな花を見ていたら、深く考えることなんて出来なくなった。
「花」
「し、しょう?」
急に現れたボクに驚いたのか、花は目を瞬かせた。膜を張ったように瞳が濡れている。花の髪の、跳ねた部分の根元に摘んだ花を刺した。花がまた瞬きをする。
「師匠、これ……?」
「花だよ。あ、君のことじゃなくて、植物の“花”、ね」
「わ、分かってます! そうじゃなくて、どうして?」
「どうして? 簡単だよ。可愛いと思ったから」
「え?」
「うん、可愛い可愛い」
花はまた驚いたように瞬きをしたけど、すぐに顔を曇らせた。半目になって唇を尖らせる。
「師匠、からかってますよね?」
「そんなことないよ?」
「バカにしてますよね?」
「してないよ。いやあ、花を飾ると違うね。かわいーかわいー」
「もう! 師匠!」
花が声を上げる。堪え切れないようにボクは笑い出してしまう。だから、花には本当のところは通じなかったはずだ。それで良いと思う。それが、良い。
「……可愛いよ」
――可愛い。可愛い。冗談めかしてなら、そういうことも言えるんだけど、ね。





2012.11.28
(おしまい)
(師匠の口調が迷走中ですんでした;v;)
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