私は去年、あの人と一緒のクラスだった。ちょっとガラが悪くて、口も悪い。授業をサボってるのもよく見かけた。でもあの人には人を惹き付ける何かがあるようで、彼の周りはいつもにぎやかだった。

私はと言えば、いつもおとなく本を読んだりしてるようなクラスではあまり目立たないタイプで。話したいのに話しかけることもできなくて、なんとなく一年を過ごしてしまった。今思えばチャンスなんか星の数ほどあった筈なのに。なんて、もったいない。

三年生のクラス替え、一緒に慣れたら良いなぁなんて祈るような気持ちでいたけど人生そんなに上手く行かない訳で。

あの人は今隣のクラス。ときどき見掛ける姿は相変わらず。そして、もう一ヶ月で卒業だっていうのに…私はまだ彼と数回しか話したことがない。


「ねぇ、まだアイツのこと好きなの?」


二年生の時から同じクラスだった女友達が、唐突にそんな質問を投げ掛けた。彼女は私の密かな気持ちを知っている数少ない人のひとり。


「うん、私はね。あの人は私の名前も覚えてないかもしれないけど」


苦笑しながらも私はそう答えるが、目の前の友人は何故か急にニヤニヤと笑みを浮かべた。「それはどうかしらねぇ。ま、頑張ってよ応援してるわ」なんて言って楽しそうに席を立つ彼女。なんだろ、急に。


「なあ、数学の教科書持ってねぇか?」


離れていく友人の背を不思議そうに見送っていた私へ、突然の上から降ってきた声。凄く驚き、慌てて声の方を見上げると机の横にはジャージ姿の彼が立ってて。再び私の心臓は跳ね上がった。彼女がにやにやしていた理由は恐らくここにあったのだろう。


「ちょ、長曾我部くん!?」
「おう」


さっきまで体育だったのか。ちょっと汗ばんだ赤い顔をして、ぶっきらぼうに返事をする彼。ああもう、格好良いなぁ。わたしの顔、あかくなってないかしら?心臓がばくばくいってる!!


「で、あるか?数学の教科書」

「あっ、うん。持ってる…けど」


ジャージ姿に見惚れ思わずフリーズしてしまっていた私に、もう一度彼が声をかけてきてハッとした。慌てて鞄を開けて数学の教科書を探す。でも、なんでだろう?どうして、わざわざ私に借りに来たの?

もしかして、なんて。どこか期待してしまうじゃないか。そんな訳ない、と自分を諫めるものの本当はすごくドキドキしてる。

そんな気持ちが顔にもろ出てたのか、彼はふいに言った。


「あー、これな…罰ゲームなんだよ」

「え?」

「体育の時間、伊達と短距離走で勝負してよぉ。んで俺が負けて、罰ゲーム」


なんだ、そっか。そうだよね、なんてことない。隣のクラスの目立たない感じの女子に教科書借りるなんていう罰ゲーム。


「はい、これ」
「おう、ありがとな」


私は彼に教科書を渡した。もしかして、だなんて思ってた私はなんだか惨めだけど。でも、それでも少し嬉しかったの。卒業まで、もう話すこともできないと思ってたから。


「あのよ…その、なんだ」

彼は教科書を受け取ると、なんだか気まずそうに何かを言いだそうとしてた。いつ返したら良いかってことかな?


「えーと、私のクラス今日はもう数学終わったから返すのはいつでもいいよ」

「あー、違う違う。そんなことじゃねぇんだよ」


そこで一度また言葉を区切る彼。私はなんだかさっぱり話が読めなくて彼を見上げた。目線を斜め上に逸らして、ほんのり紅い頬を人差し指で掻いてる。なんか、珍しいな。


「あのな、この罰ゲーム。好きな人に教科書借りる、ってヤツなんだぜ?」



いつもの擦れた低めの声でボソリと呟かれたその言葉。私の思考回路はイマイチ機能しない。え、と…あれ?それって、つまり…!






はじまりはハッピーエンド
(えええ!う、嘘っ!?)
(……返事は、コレ返すときに聞きに来るから)










愛を込めて捧げます
(HappyBirthdayDear めいこ!)




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