前を歩く迷彩の男を追いかけるように私は早足で歩く。けれど身長差による歩幅の差が距離を縮める事を許してはくれない。いつもならもう少し歩調を合わせてくれるのに、と思いながら距離を縮める事を諦めて声をかける。


「お、長!」

呼んでも反応が無い。何故こんなにも彼は不機嫌なのだろう。なにかしただろうか、と最近の自分の行動を思い返して嫌気が差した。
つい先日の任務では私がヘマした所為で予定より時間がかかったし、その前は幸村様に頼まれて長が買ってきていた団子をそうとは知らずつまみ食いしてしまった(かなり怒っていたと思うのだが表情が変わらないまま買いなおしにいくのがまた怖ろしかった)

どんどん記憶を辿っていくと、むしろ憎まれたり嫌われたりしない方がおかしい出来事が多数思い返されて…むしろこれまで良くこんな私がクビにならなかったものだ、と全身の血の気がひいた。


「おさ…?」

二度目の呼びかけにも反応は無い。やっぱりこれまでの事のなにかが気に障ったのだろうか。どうしよう…泣きそうだ。







なまえの呼び掛けに応じず自分のペースを保って歩き続ければ、背後から一生懸命についてきていた足音に急に力がなくなった。こちらの様子を恐る恐る窺うような声音。きっと今なまえは不安に駆られている。
でも、ここで返事をしてはつまらない。一生懸命についてくる姿が愛くるしくて、困っている様子を窺うのが楽しい。だから、わざと不機嫌なふり。



「待って、くださ」


小走りに俺様との距離を縮めて上着の端を掴むなまえ。瞬間、絶妙なタイミングで俺は足を止めた。その緩急の差に付いてこれなかったなまえが背中に激突する軽い衝撃。


「わっ、いきなり止まらなくても」

「なまえが待てって言うから待ったまでなんだけど?」


意地悪をしたくなってそんな台詞。きっと、この次に来るのは文句。


「それは…そうですけど」

困ったように少し眉根を寄せて、拗ねたような口元。反則だろ、それ。


「あー、もう俺様の負け!」


くるりとなまえへ振り返って、俺様の服の端を掴んだままでいた彼女の手を握り軽く引き寄せる。バランスを崩して俺様の腕の中に倒れ込む華奢な体をぎゅっと抱きしめた。


「えっ、長!怒ってたんじゃ?」


僅かに笑みを形作る俺の口元を見てなまえは言った。
置いていかれまいと必死に後をついてくる彼女が愛しい、たまならくなって駆け寄ってきてくれるのが嬉しい。けど…いつまでも不機嫌なふりをしてるのはなんだか物足りなくて、損をしてる気がしてしまうんだから俺様はもうだいぶイカれてるらしい。


「怒ってなんかないって。たださ、なまえがあんまり可愛いもんだから」

「…!」

「我慢出来なかったわけ」

耳元へと唇を寄せて甘く囁けば、なまえは面白いくらいに赤く染まってみせた。




好きになったら負け
(ついつい意地悪したくなるんだけどねぇ)






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