ときたまふいに自分の存在意義が全く感じられないことがある。ただ、死ぬのは怖いから仕方がなく生きているだけというように思えてしまうのだ。何をきっかけに、という訳ではなく。例えばそれは、激しい戦場の最中であったり、まどろみから覚醒したときであったり、様々だ。自分がいなくても全く世界は変わらないと言うことに、ふと気づく。自分がいない世界を想像したときの、その自分の存在に関わらずに世が動いている姿に自己存在への疑問を感じるのだ。
今日も乱世で幾つもの命が消えて人生が終わって。それでも時間は変わりなく流れていく、太陽は繰り返し昇ってまた落ちてゆく。その残酷な…けれども当然の自然摂理に、私はどうにも苦しめられる。戦場で散りゆく命を目の当たりにするたび自分もその一人に過ぎないのだと思い知らされる。私など居なくとも世界は変わらずに機能していく。当たり前のことなのに、それが恐ろしい。

そんなどうしようもない感情を掻い摘んで話せば、あるじは楽しそうにくつくつと喉を鳴らして笑った。何がおかしいというのだろう、人が真面目に話しているものをこうも笑うとは心外な。


「死ぬのが怖いたあ忍の台詞じゃねえな」

それもそうだ、私は忍であっていつ闇に散るかも知れぬ存在なのだから。いや寧ろ、そのためだけに生きているといっても過言ではないか。それなのに、まだ見えぬ己の死に怯える私は酷く滑稽だろう。


「そうですね、くだらない話を致しました」
「いや、別にいいんじゃねぇかお前らしくて」
「それは、褒め言葉ではないのでは?」
「さあな」


言葉を濁してあるじは再び笑う。また馬鹿にされているのだろう。
しかしあるじは幾らも経たぬうちに笑うのを止めると、急に真面目な面持ちで私のほうへと歩み寄り目の前にしゃがむ。そっと顎に手が添えられ俯きがちだった顔をすっと持ち上げられて視線が絡む。


「死に怯えるくらいなら、俺の為だけに生きろ。意地でも生き切って見せろ。勝手に死ぬなんざ許さねぇ」


あるじはいつもの不敵な笑みでそう言ってみせる。不思議と、たったその一言に気持ちが落ち着いた。あんなにも悶々としていた感情をこうも容易く解決してしまうとは。本当に、この御人には叶わない。噛み付くような口づけに酔いしれ、身を委ねた。




あいしたおとこは
ただひとり

(とうの昔に溺れていたのだろう、他の全てが見えなくなるくらい、貴方に)






(090606 葉月)
title by:透徹





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