人には魂が有るという。死に際に思い残すことがあるなら、死して尚この世に魂が残りそれを成し遂げようとするというのだ。

いつだったか私にその話をした元親が「尊いとは思わねえか」と言っていたのを思い出す。尊いものか、そんなもの。くだらない、馬鹿げた話だ。きっと私は魂となってまであの男のところになんて戻っていきやしない。あの男に至っては、悔いなぞ残して死ぬことはまずありはしないだろう。




「長曾我部元親、討ち取ったり」

敵味方ともに乱れ散った数多の屍の中、私もまたその屍のひとつに成り下がりかけていた最中のこと。我が軍本陣の方向から聞こえてきた荒野に響く敵兵の声は、私の脳内で幾度も幾度もこだましている。

もとちか?聞いたことのある名だ。まるで私のよく知っているあの男と同じ名前に聞こえたのは、きっと私の頭に血が足りない所為だろう。だいぶ出血したのだから無理もない。

あんな能天気な男の首が誰かの手に渡ることなど、ありえはしないのだから。

馬鹿みたいに自信家で、馬鹿みたいにお人好しで、馬鹿みたいに笑顔を絶やさないヒト。ああ違った。馬鹿みたい、じゃなくてあの男は馬鹿なのね。そう、だってまた私を置いて何処かへ逝こうとしてるんだもの。

ねえ待ってよ、そんな下らない冗談は聞きたくないわ。またどうせ私をからかおうって言うんでしょ?もう騙されないんだから。

ほら早く私を助けにきてよ。でないと私、血が足りなくて死んでしまうわ。貴方のことを考えていた隙に致命傷を負ったなんて聞いたらきっとさぞかし笑うんでしょうね。それでも良いからねえ早く迎えに来て。魂になんかならなくても良いからどうか、いつもの馬鹿みたいな笑顔で嘘だと言ってちょうだい。


遠く彼方の本陣から敵軍の勝鬨が聞こえて来た。嗚呼嗚呼、耳鳴りが勝鬨に聞こえるようでは私ももうおしまいね。

死してなお魂が残るのだとか、あの世で貴方に逢えるのだとか、そんなお伽噺は信じてないのだけど、もし望みが叶うのならば地獄に逝きたいわ。


何故なら地獄には鬼が…
否、貴方が
いるのでしょう?



最果て
(結局わたしは貴方に逢いに逝く)



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