穏やかな風が頬を撫でる感覚に、ゆっくりと瞼を開いた。
ほんのりと暖かいコンクリートの上に横たわっている身体。

(ああ、そうか校舎の屋上で昼寝をしてたんだっけ)

空を見上げてほんの少しまどろんでいただけの筈がいつの間にか寝入ってしまったらしい。
寝ぼけた脳みそでどうにか状況を把握した後、寝返りをうつ感覚で反対側へ身体をゴロンと反転させた。

「!」

不意に目の前に視界に飛び込んで来た、橙。
予想していなかった事態に、一瞬全身を強張らせる。


「さ・・・すけ?」


暖かい日差しの誘惑に負けて重い瞼をおろした時には確かに私一人しかいなかったハズの屋上に彼がいたことに、まず驚いた。それからその彼が私の後ろで共に横になっていたこと。そして何より・・・今も彼が瞼を閉じたままに寝息を立てていることが、信じられないくらいに驚きだ。

こんなに無防備な佐助、普段じゃ到底見られない。
別に、普段からそんなに仲良い訳でもないんだけど、ね。(何故なら彼はいつもどこか他人との間に線を引いていて、近づけさせないようなオーラが出てる気がする)


しかし人間なら誰しも、目の前に珍しいものや珍しい光景があって興味を示さずにいるなんてことは無理難題だ。

それはもちろん私にも例外じゃなくて、悪戯ごころがむくむくと湧き上がってきた。


(ちょっと・・・ほんのちょっとだけ・・・!)


はやる心をどうにも抑えきれずに、日の光で橙に染まった佐助の髪にそっと手を伸ばした。
起こさないように細心の注意を払いながら、おそるおそる。


(わぁ、思ったよりもふわふわ!)


思ったよりも柔らかい髪質、思わず毛先を撫でるように手を動かしてみる。幸い、佐助の瞼はまだ閉じられたままだ。

こんな佐助を知っているのが自分だけだとおもうと、なんだか自然に顔が綻んでしまう。
穏やかな午後にそんな小さな幸せをかみしめていたその時・・・突然目の前から伸びてきた腕に、手首を掴まれた。


「わ!」


驚きを隠せずに声をあげたのも束の間、彼のもう片方の腕は向き合うように寝転がっていた私の身体を引き寄せるように腰に回される。
気がつけば視界いっぱいの橙と、息遣いまで感じられるような距離に優しく細められた貴方の瞳。
刹那、重ね合わさる唇。


「おはよ」


いかにも人のよさそうなお得意の笑顔と共に、そう切りだした佐助。

私はといえば抵抗することすら忘れて、ただただ呆然と固まることしか出来ないでいる。

たった今起こった出来事は私の思い過ごしでも夢でもない筈なのに(だって!キ、キスさ、れた…唇が、熱い!)貴方は何事もなかったかのように“おはよ”って普通に言った。何だって言うんだ、一体。



「あは、なーんか顔赤いんじゃないのなまえ?」

「だ、だって!佐助が・・・あっ、あんなことするから!」

「そりゃあだって、俺様の髪の毛嬉しそうに触ってるなまえの顔があんまり可愛かったもんでつい、ね?」

「え・・・ちょっと待って、佐助・・・。貴方、いつから起きてたの?」

「なまえが屋上で昼寝してるの見つけて隣に寝転んでからずっと」

「た、狸寝入りなんて!卑怯だ!」

「いやーそれにしても、まさかなまえから迫ってくるなんて予想外だったねえ」



満足げな笑顔でそういうと当たり前のように私をぎゅっと抱きすくめ首元に顔を埋めると“俺様ったら幸せものじゃない?”なんて囁いた。



「迫ってないしっ!いい加減離して!ちょ…!ひっつくなあ!」

「だーめ。そんな真っ赤な顔で言われたって説得力ゼロだよー」

「誰の所為よ!」

「それに、俺様ちゃんと知ってるんだから・・・」



その後に続く言葉と意地悪な佐助の瞳に、私はただ照れたように視線を逸らすことしか出来なかった。



「なまえがいつも俺のこと目で追ってるって、さ」

「!」










まどろみの先に
(それは仕組まれた甘い罠)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -