わずかな灯りに瞼が刺激され、ゆっくりと意識を呼び戻した。まだ日は昇っていないようで、揺らめく松明の炎が薄暗い室内をちらちらと照らしている。
目の前で僅かに身じろぐなまえを見て少しばかり口角をあげると、政宗は腕の中の温もりを手繰り寄せた。自分に背を向けているなまえの後ろ頭にそっと顔を埋めれば、思った通り彼女は起きていたらしく反応があった。


「…政宗、さま?」

「どうした?浮かない顔して」

「まあ、お顔が見えないのにわかるのですか?」

「俺を誰だと思ってんだ。なまえのことならなんだってわかるぜ?」


髪をすくうように指に絡め手のひらに巻き、寝起きで擦れた色のある声でささやく。耳を侵すその甘い声に、なまえの身体はぞくりと震えた。


「まぁ戦が始まろうってんだから、無理もないか。結局、戦を避けることは出来なかった」


少し眉根をよせ自嘲ぎみに苦笑を浮かべてみせる政宗に、なまえは弱弱しく微笑を浮かべて頷くことで返した。


「貴方様の所為では、ございません。この戦も民を思ってのこと…」


優しく髪を撫でる政宗の腕に導かれるように身体を反転させ、その胸へと顔を埋めた。自分の表情は、こうして隠れて彼には見えないといい。戦を前にして、自分が不安に思っているのだと気遣われるのは、彼女の望むところではなかった。政宗には、彼のやるべきことだけを見据えて戦に臨んで欲しいのだから。


「やっぱり、不安か…」

「違うのです。ただ、少し夢を見たせいか、ぼうっとしてただけで」

「夢?恐ろしい夢か?」


いいえ、と頭を横に振り、ぎゅうと政宗に抱きつく腕に力を込めた。強く強く、その存在を確かめるかように。


「政宗さまと、愛し合う夢でした」


その言葉に、政宗は一瞬面食らったように、きょとんと目を丸くする。しかしすぐに、にやりと含みのある笑みを浮かべ、唇をなまえの首筋へおとした。なまえの耳にはくつくつと笑いをこらえる政宗の声が聞こえる。


「なんだ、俺の愛しのお姫様は欲求不満か?言ってくれりゃあいつでもお望みのままにするぜ、my sweet。もういいって音をあげるほどな」


冗談半分に甘く囁いてみるものの、いつものようななまえの可愛らしい反論がない。不思議に思って肩口に埋められた顔を覗き込んで見れば今にも泣きだしそうな表情のなまえと視線が絡んだ。


「俺に抱かれる夢じゃ、不満か?」

「いいえ、幸せすぎるのです」


優しくて温かくて穏やかで、幸せで、やるせない夢だ。これから直面するものと、あまりにも違いすぎるから。失うかもしれないときに、失いたくないものをまざまざと見てしまったから。かけがえのないもの。心地良いもの。幸せな幻は、ただ不安を煽るだけ。


「……まだ夜明けまでは時間がある。もう少し休んどけ」


気遣うように頭に触れる手が、まどろみを誘う。落ち着いたこの声が、優しく髪を撫でるこの手が、永遠に消えなければいいのに、と。温もりに縋るように、政宗の肩に頭を寄せて、そのまま一時の安寧を手繰り寄せた。



仮想崩壊
(貴方がいない世界など、一瞬でも想像した自分が憎い)





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