「伊達せんせー」


放課後の応接室。静かだったそこに耳に残る挑発的な声が響く。気だるそうにソファに身体を沈めていた彼は、首だけを動かしてゆっくりと振り返った。


「また、お前か」

伊達と呼ばれた教師は、ソファの後ろに立っていた彼女を見るとうんざりとした表情でそういった。一方彼女はそんな彼の態度などさして気にならない様子で、首を傾げて笑顔を見せる。


「嬉しいくせに」

「ha、冗談はできの悪い脳ミソだけにしとけよ」


ふいっと政宗はなまえから顔を逸らした。そしてゆっくりと瞼を下ろす。長いまつげが、頬に影を落とした。


「冷たいなー」
「るせ」


ギシリとソファが沈む音。トンとソファの背凭れにつかれた両手。いつのまに回り込んだのか、なまえは政宗をまたぐようにソファへ膝をついた。それに気付いた政宗は、眉を寄せてゆっくりと睨みつけるように目を開ける。向かい合う体勢で目の前にある制服のリボン。耳元に寄せられた彼女の唇は、甘い声音で誘惑の言葉を紡ぐ。


「ねぇ、先生。ちゅーしていい?」

「駄目に決まってんだろ」

「なんで?」

「あほか。ここは学校で、お前は生徒、俺は教師だ。悪いが、わざわざそんな危険な橋を渡る趣味はねぇよ」

「あはは、何を今更」


呆れた口調の政宗に対し、彼女は楽しそうに笑いながら彼の膝の上へすとんと腰を降ろした。それを見て政宗は、溜め息をひとつ吐いて眉間のしわをさらに深くした。それでも押し返すといった抵抗をしないのは、それだけなまえに心を許していることの証明であり、日常的になされている会話であるからだろう。

暫く、お互い無言のまま至近距離で視線を絡ませる。根負けして先に行動を起こしたのは政宗だった。なまえの肩に腕を回してそのままクルリと体勢を変え、ソファに寝かせたなまえに深くキスを落とす。


「危ない橋は渡らないんじゃないんですかー?政宗せんせ」

「Ah?誘ったお前が悪いんだろーが」

「政宗が意地悪するからいけないんじゃない」

「先生なんて呼びやがるからそれなりの対応してやっただけだ」

「だって先生でしょ?ここは学校だし」

「だったら誘うなよ」

「それは無理」


なまえは即答してみせると、政宗の首へと腕を絡ませる。その腕に促されるように身体を寄せてなまえ額にキスをすれば、くすぐったいと身を捩った。一度に全てを与えない。ゆっくり、ゆっくり焦らして。他のことなど考えられないくらいに、彼女の脳内を侵していく。


「なら、たっぷり可愛がってやるよ」


にやりと口角をあげる政宗のその表情。ぞくり背筋をはい上がる快感になまえは身を震わせる。人も疎らな校内にチャイムが鳴り響き、応接室の鍵はカチャリと音を立てて閉まった。



わがままに
(ただ、貴方が欲しいだけなの)






大好きな千穂子に捧げます
(090804 葉月)

Title:落日



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