捻った足首がズキズキと痛み出して、私は思わず地面にしゃがみ込む。町へ買い出しに行った帰り道、つい遅くなって慌てていたとはいえ砂利だらけの獣道を走り抜けた。あんな近道するんじゃなかったと、今更ながらに後悔しては足を擦る。捻った右足を庇うようにして、なんとかここまで歩いて来たけど足の痛みは限界に達しているようだった。あぁどうしよう。次第に暮れてゆく日を西の空に見て気ばかりが急く。城までもう少しなのに、なかなか森が抜けられない。頑張ろう、みんなが待ってる。そう思い立ち上がった時、後ろの方から良く知った声がした。


「なまえ殿?」

「ゆ、幸村様!?何故このようなところに?」

「某は、森での鍛練が終わり城へ戻るところでござる。それよりなまえ殿はこんな場所で何をしておったのだ?」

「あっ、その…町まで買い物に行った帰りで」


「いや、その足だ」



幸村様の視線は真っ直ぐに私の右足に注がれている。それもそうだ、引きずる様に歩いている様は当然不思議がるに値するのだろう。恥ずかしい。


「ちょっと…挫いてしまって」

「まさか、その足でここまで歩いてきたのか?」


驚いた表情に、少し咎めるような幸村様の口調。よりによってこんな姿を幸村様に見つかってしまうだなんて、恥ずかしさに顔が熱くなる。


「あ、え…と……はい」


俯きかげんに幸村様を伺いみれば、何かを考えるように腕組をしている。むむむ、と唸っていたかと思うと突然こちらにくるっと背を向けて私の前にしゃがみ込んだ。


「なまえ殿、どうぞ乗ってくだされ」

「はい?」 



背を向けられて乗って下さいと言われれば…それはおぶってやると言う意味しか無いだろう。だけどそんな事、出来るわけがない。


「そ、そんなっ!できません」

「なぜだ?」

「幸村様におぶってもらうだなんて、勿体ない」

「何を言っておるのだ、この状況で」

「でも…でも…」


どんな状況だろうと私はただの女中でしかないし、幸村様は私の主であり城主なのだ。おぶってもらうだなんてそんなこと頼めるはずがない。もじもじとする私に、幸村様が優しく言い聞かせるように言葉を続ける。


「なまえ殿、余計な心配は無用でござる」


いつまでもその態勢を崩さない幸村様の背中が早くと急かしているようで私は思い切ってその優しさに甘える事にした。幸村様は優しいけど、意外と頑固なところを持ち合わせているから、断ったところでそうですかとは引いてくれないだろう。


「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」

「うむ、乗り心地の保証はできぬが」


冗談まじりにそういって笑って見せる幸村様。私は恥ずかしさを堪えてそっと背中に身を預けた。ふわりと身体が持ち上がり私な全体重が幸村様にかかる。


「あの…重いでしょう?」
「なんの、軽いくらいだ。任せて下され」


歩み出した幸村様の背中、一歩歩くたびその振動が背中を伝わって私の体を揺らす。ドキドキと落ち着かなかった心臓と緊張で硬くなる身体。城につくまでにおかしくなってしまわないか心配なくらい。


けれど、暫く歩くうちに緊張は次第と解されるように柔らかくなっていき、幸村様から伝わる振動がだんだんと心地よくなってくる。いつのまにか恥ずかしいという気持ちは消え、その大きな背中に安堵感すら覚えていた。広くて大きくてとっても温かい。

これならば足を捻るのも悪くないかなんて、恥ずかしいことを思ってしまう。服越しにでもわかるその体温が、時折風に吹かれてなびく後ろ髪が、こんなにも近くで私に触れる。幸村様の匂いがする。その全てが愛おしくなって、肩に添えていた手を首の方に回すとそれまで浮かせていた上体を、その背中にそっと預け目を閉じた。今はまだ、この瞬間の幸せをかみしめていても罰はあたらないでしょう?




なんだか嬉しい日
(幸村の横顔が夕陽の色のように茜色に染まっていたのを彼女はまだ知らない)





「助太刀」様に提出
(090811 葉月)



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