アルバイトシリーズ | ナノ
 柳蓮二

 私は書店でバイトをしている。
 そこによく、近所に住む柳蓮二という男の子がやってくる。顔立ちの整った背の高い男の子で、たいへんな読書家である。そのため、彼が書店に来る頻度というのはとても高い。
 今日とて柳くんは来ていた。純文学のあたりを見て回っているようだった。そんな姿を横目に「今日もかっこいいな〜」なんて思いながら歩いていると、何かに蹴つまずいてこけた。
「きゃっ!」
 周りの客が私に視線をやった。私はすぐに立ち上がって、失礼いたしました! と慌てて頭を下げる。はあ〜恥ずかしい。またやっちゃった。
 そう、これが「また」なのである。
 いつもいつも柳くんがいることが分かると、私はへまをやってしまうのだ。先ほどみたいに転けたり躓いたりすることはしょっちゅうだし、本をばら撒いたこともある。
「はあ……」
 私は躓くにいたった正体に目を向けた。そこには本が入った段ボール箱が置きっぱなしになっている。もう! こんなところに放置したのは誰よ! ってプンプンしていたら柳くんが私の元へ来た。
「大丈夫か?」
 私に近寄って小声で言った柳くん。囁かれたような気分でドキリと胸が鳴った。君のせいでもある、なんて勝手かな?
「ありがとう、大丈夫だよ」
 私も背を伸ばして少し近寄り気味で言葉を返す。柳くんはそうか、と微笑んだ。
 それから柳くんは私に取って欲しい本があるとかで、梯子を持って来るように言った。裏に取りに行って戻ってくると、柳くんは高い位置にある本を指した。確かにあれだけ高ければ柳くんの背だって届かない。
「わかった、ちょっと待ってね」
「取れるか? 何だったら自分で取るが」
「あっ私がまたドジ踏むと思ってるんでしょ? 大丈夫だもん」
 私は口を尖らせながら梯子を上っていく。この梯子、いつもはわりかしガタガタと揺れるので怖いのだが、今は柳くんがしっかりと抑えてくれているので安心だった。
「どの本?」
 下を向くと、そこにはこちらを見上げている柳くんの姿が目に入る。なんだか新鮮な気分だ。
 そうして、私は頼まれた本を無事に取ることができた。あとは降りるだけだ。
「気をつけるのだぞ」
「わかってるよ〜」
 なんて言いながらも、私はまたしてもやらかしてしまうのだ。
「きゃっ……!」
 足を滑らせ、体が宙に浮く。やばい。そう思って目を瞑ると同時に、私の体は抱えられていた。
「言ったそばから名字は……」
 目を開けると、柳くんは私の顔を覗き込んで笑っている。梯子から落ちたことも恥ずかしければ、こうやってお姫様抱っこされていることも恥ずかしいし、何なら目の前に柳くんの顔があるのだって……。
 とにかく、羞恥心でいっぱいの私はお礼の言葉も言えず、顔を真っ赤にして柳くんに抱かれていた。
「あの……その……っ」
「ん?」
 わざとなのか何なのか、一向に腕から降ろしてくれない柳くん。この状態だとまともに喋れないのでとりあえず降ろしてほしい。しかし、それさえも私は口に出せない。
「うぅ……え、えっとー……」
「ふっ……予想以上に照れているな。そんな姿も可愛いと、俺は思うぞ」
 耳元で囁かれて、私はもはや“撃沈”である。これで恋しない女がいるなら私は教えてほしい。

***
あとがき
ベタな展開でそして甘々!書いてる方も恥ずかしいですよ柳さん!!
(20180419)執筆
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