アルバイトシリーズ | ナノ
 柳蓮二

 毎週日曜日の昼過ぎに、あの彼はやってくる。背が高く、綺麗な顔立ちをした人だ。いつも「柳」という名で予約が入っている食パンの10枚切りを買っていくのだ。柳さんというらしい。そんな彼が他の菓子パンや調理パンを買ったところは見たことがない。おそらく、私がバイトに入っていない日曜日も食パンだけを購入しているのだろう。
 ある日、私は店頭で試食を配っていた。
「お米パンのご試食お配りしていま〜す。いかがですか〜」
 すると、あの彼が店に入ってきた。
「あっ! いらっしゃいませ。食パンをご予約の柳さまですよね。少々、お待ちくださいませ」
 私がにっこりと笑顔でそう言えば、彼は嬉しそうに頷いた。店の裏から取り置きしておいた食パンを手にとってレジまで持っていく。
「食パンの10枚切りでお間違えなかったでしょうか?」
「はい、ありがとうございます。顔を覚えてくださっているんですね」
「もちろん、常連様ですから」
 と説明するが、彼がかっこいいからすぐに覚えたのだ。私は会話を途切らせたくなくて、先ほど配っていたお米パンを薦めることにした。
「えっと、こちらお米パンなんですが、いかがですか?」
「いただくとしよう」
 柳さんが薄くスライスされたお米パンを口に含んだ。じっとその姿を私は見つめる。ものを食べてる姿も素敵だなあ、なんて思う私はやっぱり彼に惚れているのかもしれない。
「どうですか?」
「米粉そのものの自然な甘みがあって美味しいです。少々もっちりとした食感も悪くない」
「お口にあって良かったです!お野菜なんか挟んでもとっても美味しいんですよ」
 ここぞとばかりに私は店員としてお米パンをアピールしてみる。すると、柳さんは考える素ぶりを見せたあと、口角上げて言った。
「1つ、買いましょう」
「ありがとうございます!」
 私はすぐに売り場からお米パンを1つ持ってくる。そしてお会計を済ませた。
「いつもありがとうございます。またどうぞお越しくださいませ!」
 私は深々と頭を下げる。顔を上げると、微笑を浮かべる柳さんと目が合った。照れそうになって、つい目を逸らしてしまう。
「フッ、実は俺もあなたのことを覚えているんですよ」
 名字さん。と名前を呼ばれ、私の頬は耐えきれずに赤く染まる。動揺している私に柳さんはさらに言葉をかける。
「いつも笑顔が素敵な方だと思っていました。また来ます」
 真っ赤になっている私なんかお構いなしに追撃をした柳さんは帰っていった。恥ずかしくて俯いていると、私はあることに気づいた。名札をつけ忘れていたのだ。
 柳さんは本当に私の顔も名前も覚えていたらしい。

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 柳さんのお家でもサンドイッチは出るのでしょうか。ただただパン屋が書きたかった著者でした。
(20180419)執筆
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