▼ 恋に落ちちゃったの。
誰もいない放課後の図書室。
普段なら司書の人がいるが今日は用事があるので仕事を任された。気が向いたので偶々、来ただけです...なんて言えるわけもなく私は引き受けてしまった。
「はぁー...誰も来ないじゃん」
カウンターに座っているだけというのも暇なので、私は本を読むことにした。
それからキリのいいところまで読み進め、一度本を置いた。
「ふぅ...」
ため息をつき、時計を見る。図書室を閉めるまで、あと約一時間。
ポケットに手を突っ込むと手に何かが当たった。
「ん?」
確認してみると、それは一週間程前に友人から貰った飴であった。
図書室は飲食は禁止だが、誰も見てないならいいかと思って飴を口に入れた。
イチゴの味が口に広がる。
「あま...」
決して嫌いではないが、好きともいえない味。
喉が乾くな、と思いながら再度、本を手に取った。
それから少し経った頃
ガチャリ
扉が開く音がしたのでそちらに視線をやると、柳がこちらに歩いてくるのが見えた。
生徒会の人じゃん。飴、舐めてるのバレたら怒られんのかなあ。
そう思いながらコロコロと転がしていた飴を動かさず口を閉じ、本に視線を戻した。
柳はそのまま本棚へと足を進め、数冊取ってこちらに来た。
「司書の人に仕事を任されたのか」
はい、と答えるわけにもいかないのでコクンと頷いた。そして、柳から本を受け取ってバーコードを読み取り、判子を押す。
無言で差し出すとこちらをじっと見つめてきた。
「苗字が図書室にいるなんて珍しいな。どうかしたか?」
「...!?」
同じクラスになったこともないのに、柳が私の名前を知っていることに驚いた。しかし、あのテニス部の参謀だ。学年全員の名前を覚えていてもおかしくはないか。
「偶々ね」
質問の内容的に言葉を返さなくてはならないので本で口元を隠しながら言う。
今のかなり自然な感じだった!絶対バレてない!と心の内で喜ぶ。
「ところで、苗字」
ん?と私は首を傾げた。
「ここでは飲食禁止というのを知った上で飴を舐めているのか?」
えっ!?バレてんじゃん。よし、ここは知らなかったふりを...
「え、飴もだめなの?何だー。飲み物だけ駄目だと思ってた」
あははと笑いながら言うと、柳は勝ち誇った笑みでこちらを見た。
「...とお前は言うが、先程、本で口元を隠しながら話したという事は知っていたのだろう?」
参謀は何でもお見通しの様です。
何か罰とかあるのかな?それは嫌だなあ。あ、風紀委員長にチクられたりしたらどうしよ。生徒指導室で説教とか?え、でも、飴を舐めてただけでそれはないよね。今少し怒られるとか?
「フッ...そんな怯えたような目をするな。襲いたくなる」
「えっ、え...?」
「冗談だ」
心臓に悪いことを言うな!柳はただでさえ顔がいいのだから。
「とりあえず、飴は没収だな」
そう言いながらカウンターの中に入ってきた柳はにやりと笑った。
「ぼ、没収?」
「ああ」
すると唇に柔らかい感触。
「んっ!?」
私の思考回路が追いつく前に舌がぬっと入ってきた。
ちょっ!?えっ!?
慌てている間に柳は舌を器用に動かし私の口にあった飴を自分の口へと運んだ。
唇が離れてからも私は状況が整理できずに呆然としていた。
それから数秒ほど考えた私はキスされたのだと理解する。
「な、な、なななな...!?」
耳まで赤くなっていることが自分でもわかる。
「甘いな...」
柳が少し眉間に皺を寄せた。
「な、何してるのよ!」
「飴を没収しただけだ」
そういう答えが聞きたいわけではない。私が言っているのはーーー
「キスのこと、だろう?」
「え、あ、うん」
柳には私の考えていることも全部筒抜けな気がしてしょうがない。
「ファーストキスだったのか?」
「...うっ、ま、まあ」
そうですよー。彼氏いない歴=今の年齢の私がキスしたことあるわけないじゃないか。
「そうか、それは光栄だな」
「は、はあ...」
これまた何で?と思ったが柳が踵を返したので聞くタイミングを失った。
「では、またな」
一度振り返った柳はいやらしい程に妖艶な笑みを残して去った。
「何てことしてくれんの...」
一人になった図書室で呟いた。
それからというもの、あのイチゴ味の飴を見る度に図書室であったことが思い出される。
悔しいことに、イチゴの味が少しだけ好きになってしまった自分がいる。
(あなたを目で追うようになったのはあれから少し経った頃)
―――――恋に落ちちゃったの。
(全て、計算の内さ)
ってか夢小説サイト初投稿がコレって…まあ、いいですけど……。
前サイトにて記載
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