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▼ 図書室ドッキリ

 あぁ、何と素敵な日なんだろうか……私は感嘆の溜息をもらした。素晴らしい、大変素晴らしい。
 突然だが放課後の図書室はなかなかに混む。酷い時は座る席がない。それがどうだろうか。人っ子一人いやしない。いや、私は居るけどもね。図書委員の子さえも居ないこの空間はまさに天国。ジ・エデン!!あぁ、もう素敵過ぎてどうしようか……。緩みっぱなしであろう自分の顔など容易に想像できた。そんな至福は一瞬にして壊された。いや、ほんと一瞬に。


*****


 今日は端っこから読もうと決めたため、本当に本棚の端から十数冊の本を取り出して読み耽っている時のことだ。ふと、私の座るテーブルに影が落ちた。こんなスカスカなのに私の前を選ぶなんて物好きな……ふ、私に惚れたか。などと只今読んでいる小説の黒幕の一説を拝借させていただいたがサムイ。これはいけないな、などと自分に評価を下していると声をかけられた。それもよく知っている声で、だ。

「苗字」
「ん?あぁ、柳君か」

 本から目を逸らさずにその声に返事を返す。まぁ、柳君だし、いつものことだ。と私は失礼と知りつつもまた一ページまた一ページとページを捲った。

「お前は一昨日が誕生日だったそうだな」
「そうだよ。あ、何お祝いですかね?大丈夫一年までなら許してあげるから」

 自分でも馬鹿げた考えだとは思うがやはり心のこもったプレゼントは嬉しいものだ。いや、心こもってなくても別にいいけど誕生日を祝ってもらえるのは好きだ。つまり誕生日プレゼントも好きだ。大好きだ、愛している。だから遅れたって気にしないぜ!
 そうこうしている間、柳君からの次の言葉はなくだんだんと不審になってくる。なんだいなんだい、今の発言に引いたってか?それにしたって復活が遅くないか、と上を向いたのが運のつきだった。ビタンと小気味いい音が私の右頬から聞こえてきた。え、ちょっ

「イッタ!マジ痛い!てか痛い!何柳君!?」

 目の前で珍しく目を開けて無言で立つ柳君は怖い。その私のほっぺを引っ叩いた後であろう麗しき左手が怖い。自分の右頬を抑えながら私は柳君にこの頬っぺたの痛さを訴えた。どれぐらい痛いって、君の左手が微かに赤くなるぐらいには痛いよ、容赦ないね!

「2日だ……」
「は、何がよ。てか、マジで痛い……」

 そして私が彼の整った綺麗な顔をキッと睨みあげると制止していた両腕があがって、私のもっちりほっぺを捉えた。そして左右へ引っ張る。と、言えば簡単だがそんなに可愛いものじゃない!!

「いひゃいいひゃいいひゃ!!いぎゃーー」
「この柳蓮二が2日と17時間32分19秒遅れたんだぞ?」
「は?しんひゃいですよ!?てひゃにゃんひぇわひゃひのうみゃれた「何を言っているのかさっぱりだな、ちゃんと喋ってくれないか苗字」っ!!」

 ふざけるんじゃない全く!この状況でちゃんと喋れとか鬼畜か!鬼畜か。それよりも痛い痛い、本当に痛いってば!
 私のほっぺたが引き千切れる限界まできてやっと柳君はその長い指を離してくれた。絶対赤い。メッチャクチャ赤いと思う。そこでやっと私は反撃に出た。

「だいたい私の友達に聞きゃいいじゃん!」
「友達が0のお前の友達?会ってみたいな」
「ぐっ、じゃ、じゃあ直接聞くとかしなよ!」
「この柳蓮二がお前に頭を下げる……そういった冗談は好ましくないぞ」
「理不尽!」

 今すぐにこの男をどうにかしてください。私の精神が崩壊します。ズッタズタのボロボロのボロ雑巾になっちゃいますから。修復不可能になっちゃいますから!!あぁ、痛さと悲しさで涙出てきたんですけど……

「そんな顔するな」
「柳君がさせたんですけど……」
「もっといじめたくなるだろ」
「誰かー!!助けてー!」

 もう嫌だ、本気で涙が溢れてきた。この場から逃げ出そうとした私の腕を柳君が掴むので逃げれれない。誰かー!!

「泣き顔というものはそそるな」
「ギャァァ、来ないで近づかないで、てかテーブルは乗るものじゃないですぅぅ!」

 私の腕を掴んだまま机の上に片膝を上げ迫ってくる柳君。整った顔が目の前の、しかも大分近い所で広がっている。思いの外長い睫毛に視線と羞恥が集中する。きっと私の顔は真っ赤だ。あ、ほっぺたは現に真っ赤なんだけども。
 バサバサと重ねておいた本が音を立てて崩れる。お互いの息がかかる距離。あ、柳君ミント……何て冗談も言ってられないんですけどね!未だに涙目の私は"これはあれか、接吻ですか、そうですか"と変な考えに辿り着き、覚悟を決めてギュっと目を瞑った。

「ふ、」

 触れたのはミント。しかし硬い。その違和感に名前を呼ぼうと薄らと開いた口にその硬いミントは彼の綺麗な指で私の口の中に押し込まれた。突然の異物感と自分の唇に触れたひんやりとした彼の指に驚いて私は咽てしまった。そしてしばらくして気づく、のど飴じゃねコレ……

「お前でもその考えに至るのか、データに追加だな」
「うわっ、騙された!柳君鬼畜!!」
「何とでも言えばいい」
「鬼畜!鬼!ドS!」

 思いつく限りの暴言を吐いてやろうかと思ったがハイスペックストーカーな柳君に当てはまりそうな暴言がなくて逆に自分が悲しくなった。私に合う暴言はきっと星の数あるだろうに。体勢を立て直し、そんな考えを抱きながら落ちてしまった本を拾い上げる。その作業を繰り返しているうちに私は冷静さを取り戻し始めた。

「結局柳君は何が言いたかったの……」
「ん、あぁだからこの柳蓮二が「それは分かったって」冗談だ」

 さっき冗談嫌いって言ったくせに、と心の中で毒づけば「お前が吐くくだらない冗談が好きでないだけだ」と辛口コメントを頂いた。わかった、わかったよ、よぉぉく分かったよ。そんなに私のことが嫌いなんだね!

「用がないんだった「誕生日おめでとう」は……?」

 自分の耳を疑った。驚きのあまり拾い上げていた本をまた落としてしまった。ページ折れてないよな?それよりも、え、何それ。

「遅れたが、一年以内なら許してくれるのだろ?」
「ま、まぁ……」

 驚き過ぎて何も言えない。まさか、まさかあの柳君からお祝いの言葉を貰えるなんて……誰が考えたのだろうかこんなサプライズ質が悪い。私は自分のほっぺたを引っ叩いた。あ、痛い。やっぱり痛い。そんな奇行に走った私を見て柳君は「やり過ぎたか」と小さく呟いた。えぇ、ドッキリならやり過ぎです。早くネタばらししてください。


「好きな女子の誕生日は一番に祝いたかったんだが……無理だったからな、八つ当たりだ」
 
 「ほら、ネタばらししてやったぞ」と涼しい顔で言ってのけた柳君。ネタばらしをしてくれとは思ったけど別にそんなネタばらしをしてほしかったわけでは無くですね。てか、やっぱり八つ当たりなのね、薄々八つ当たりだとは思ってたけど、八つ当たりなのね。私は訳が分からなくてただ口元をぎこちなくひくくつかせた。

 目の前の男の耳が夕焼でほんのり赤いのかそれ以外の理由があるのかはこの時の私には分からなかった。それ以上に自分の両頬が赤かったろうから……

*****
誕生日祝いにヨコシマヤさんから頂きました!ありがとうございます。
相互記念とリクエストの小説ももらったのに引き続き誕生日祝いの小説ももらえるとは予想だにしていなかったため、本当に嬉しかったです。
柳さんのドSさと鬼畜加減が最高すぎて、読んでいる間はずっと口元が緩んでました(笑)なんて怪しいやつなんだって感じですが、それだけ格好良かったんですよ!
ヨコシマヤさん、本当にありがとうございました!

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