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▼ 青春よ甦れ!

「あぁ、そんなこともあったね」
 4人それぞれの笑みをこぼしながらページを捲った。現在真田家、男3人女1人というカオスな状況。しかも大人4人小さな机に集まっているのだから状況はよりカオスである。

 こんなことになったのは数時間前。植物とかそういう系の大学に通い始めて1年。そこで初めて懐かしい存在に出会ったのが始まりだ。それがこの3人のうちの1人、綺麗な笑顔を携えておられる幸村だ。そういえば友人が「テニスサークルに神が降臨した!」とか言ってたっけ。神って聞いたとき幸村でてきたけど流石に神じゃないだろうと思ったが……いつの間に"子"取れたの?
 それは置いといて、中学の頃の知り合い(関係性的にはマブダチ?)である幸村に会って「え、同じ大学?」「高校とかなにしてたの?」「まだテニスやってんの?」みたいな会話に花を咲かせるうちに一緒に帰る羽目になり、その途中で近くの名門大学に通う柳に偶然(とは全く持って思えないが、彼が開眼するから偶然なのだ)出会い、またまた一緒に帰る羽目になり、3人で一緒に帰っているところに買い物帰りの真田に会ってそのまま真田家に押し掛けた、という何とも長ったらしい経緯があるのだ。そしてまだ続くのだが……
 
 久しぶりに訪れた真田家は昔と変わりはなく、流石おばさん!と感心しきっていた。そんな私をよそに、幸村は我物顔で真田の部屋に入りベッドの下の収納ケースを物色しだした。あぁ、こらこらエロ本でも見つけたらどうするの幸村君ちょっとよしなさい!

「と、言いつつお前も満更でもない顔で探すのだな」
「あれ?口に出てた」

 駄々漏れだ。と返されれば私はテヘペロをするしかない。隣で幸村が嗚咽していたのは私の心の関係上スルーさせていただいた。気を取り直して私も手を付けようと手を伸ばすのと幸村が物を発見するのと真田がお茶を持ってくるのはほぼ同時だった。

「何それ」
「アルバム」
「あぁ、中学時代のだな」
「ほぉ、懐かしいな……」

 幸村が嬉々としてケースからその紺のアルバムを取り出す。表紙には私達が卒業した年と何期の卒業生かが書かれてる。うわ、懐かしい。私何処行ったか忘れたよ……あぁ、押し花づくりに使った気がする。そう言ったら真田に「大事に扱わんか」と呆れたように言われた。いや、だから大事に押し花づくりに(以下略)。そしてやっと冒頭に戻るわけだ。

「あ、これ体育祭の騎馬戦……」

 どれどれ、と3人が私の指の先に目を向ける。そこには真田を前に両端に柳とジャッカル、その上に幸村というもう訳の分からない騎馬がある。そういえば私は丸井と仁王と赤也と同じチームになって騎馬に出場してあれには勝てねぇよ、と4人で絶望していた気がする。(柳生はどちらのチームでもなかったので涼しげにこの光景を眺めていたっけ……)考えても見てほしい。神の子、皇帝、達人、4つの肺を持つ男。勝てる気がしねぇよ。

「幸村無傷だったもんね、あぁ恐ろしい」
「周りが弱かったからね」

 五体の騎馬を一辺にやっつけたんだぜ?みんな「見えねぇ」とか「聞こえねぇ」とか言ってたんだぜ?それでよく周りが弱かったとか言えるな!!神の子こえぇよ!

「それよりほら、これ」
「あぁ、これは……」
「海原祭の後夜祭のキャンプファイヤーの時か」

 幸村が笑いをこらえながら言うので何だと思って目を向ければ思い出したくもない写真が1枚そこにあり、私は慌ててアルバムを取ろうとするが幸村が自分の方にヒョイッと取り上げたので手が届かず柳にもたれる形となった。
「ちょっ幸村それはダメ!ほら、真田だって居んじゃん!!」

 ピュアな真田の前で何してくれんの!?と叫べば真田がチラッと写真に目を向けてから苦笑いした。お、何この反応。え、昔みたいな「恋愛なんてたるんどる!」的なやつは何処ですか真田君。

「丸井に告られる苗字の目、点だしっ、ぶふっ!」
「言ってやるな精市……ふっ」

「お前等いっぺん表に出ろ馬鹿野郎!」
「落ち着け苗字」

 真田に取り押さえられる私と腹を抱えて笑う幸村。それから堪えきれていない柳。恥ずかしさよりも怒りが勝った私は幸村からアルバムを取り上げじっくりその写真を眺めた。

「確か断ったのだったな?」
「丸井モテたのに、残念」

 お前には勿体ないくらいだったのに、というニュアンスで言われたがもう無視だ。これ以上幸村のお戯れに構ってたら私胃潰瘍になるわ。
「だって、当時は柳が好きだったし」
「そういえば、そうだったな」

 何で知ってんだよ。とか思ったが柳はこういう奴だった。一歩間違えれば豚箱に突っ込まれるような奴だった。コイツの前じゃプライバシー保護法もあってないようなものだ。何故当時私はこの変人が好きだったのか……中学時代の自分解せん。

「今なら付き合ってやらなくもないがな」
 そう言って少し目を開いた柳にキュンとした。蘇るな私ぃぃぃぃ。騙されるなコイツはそういう奴なんだぞぉぉぉ。でもぉぉ、今のはキュンとした……っ。

「ちょ、蓮二冗談っ!苗字はない!!絶対付き合いたくない」
「おい、幸村お前いっぺん滅びろ、土に帰れ!」

 未だに声を上げて笑いながらテーブルをドンドン叩く幸村に殺意さえ覚え始める。今なら私、神を土に返せる気がする!

「幸村も蓮二もほどほどにしてやれ」
「真田……流石私の旦那!!」
 一人だけ私の背中をポンポンして慰めてくれる真田は"熟年夫婦"と呼ばれていただけあって私のことをよく理解してくれている。流石真田、私の旦那!よ、日本一の幼馴染!!と褒めちぎれば顔を真っ赤にして俯いてしまった。あぁ、そこら辺はまだピュアなままなのね。
 一人チラリと手元のアルバムを覗き見れば吹き出してしまった。

「何何、何があったの苗字、真田とゴキブリのツーショットでもあった?」
「いや、くっ、ふっ柳の目が半開き……っ」

 そこにはテニス部の3年生だけで映ったクラブ写真。アイドル並みの笑顔の丸井と、成人並みの色気の仁王、こんな時まで不憫なジャッカルに逆光眼鏡が眩しい柳生。それから肩ジャー神の子幸村に、黒い帽子をかぶった真田、その隣にはんめの柳っぶふっダメだお腹痛いっ

「苗字……それは半目ではない」
「いや、半目「苗字、しつこいぞ」はい、スミマセン」

 結局私は柳の開眼には勝てないらしく大人しくアルバムを捲った。
 1年生の頃の私達に、全国制覇した時の2年生の幸村達。馬鹿やってる日常に、芸術鑑賞会の時の絵を描く幸村の横顔、剣道の時の真田の気迫あふれる顔、書道をするときの柳の真剣な顔。懐かしい思い出がいっぱい蘇ってくる。間違いなく、一番輝いていた。あの時代の自分たちの声と共に少しずつ鮮やかになる。

「あぁ、アルバム見てたら赤也とかに会いたくなったなぁ〜」
「丸井じゃなくって?」
「幸村?」
「冗談だよ。でもまぁ、確かに会いたいね」

 アルバムを閉じグーッと伸びをする。んー今頃何をしているだろうか。中学の卒業式を最後に会ってないなそういえば……

「今から集合しちゃう?」
「流石に真田家にご迷惑じゃない?」
「いや、母も全員来る気で今日はご馳走だとか言っていたから家は構わんぞ」
「そうとなれば全員に連絡だね」
「案ずるな精市、すでに連絡済だ」
「うわ、流石柳。もう用意周到すぎて逆に引くよね」
「そう褒めるな」
「褒めてねぇよ!」

 チョップを食らわしてやろうと身構えた時、チャイムの音が聞こえてきてその後に5つのバッラバラな挨拶が聞こえてきて3人で笑った。真田は赤也の挨拶に不満があるみたいだが、まぁ赤也らしくていいじゃないか。そう言えば溜息を吐いてから諦めたように笑った。

「弦一郎出てちょーだい!」

「わかりました」

 そう真田が返事をしてから4人で顔を見合わせて笑った。さぁ、久しぶりに会いに行こうか、私が一番輝いてた時代の友人たちに。そしたら真田ママのご馳走食べて、全員でもう一回アルバムを見返そう。あの青春時代がきっと甦る!

*****
リクエストをしたらヨコシマヤさんから頂きました!ありがとうございます。
三強とヒロインが昔を振り返る話が読みたいとリクエストさせてもらいました。
いや、もう、とても面白かった!この一言に尽きるくらい楽しめました!
海志漢の騎馬戦でふきましたね(笑)神の子がいる時点で勝率0%でしょうから。
ヨコシマヤさん、本当にありがとうございました!

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