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私はソファに寝転がりながら伸びをした。

「ふぁ〜完成やあ」

何のことかというと、一年前からネットにアップしている夢小説である。まだ連載途中で、今書き終えたのは12話である。
因みに『テニスの王子様』のトリップ小説で、今のところオチキャラは未定。立海に入ってキャラとわちゃわちゃするというベタすぎるトリップ小説。だが、私はベタが大好きなんだ。

意図せず幸村や柳に興味を抱かれ、丸井に菓子をあげたら妙に喜ばれて、仁王の変装を破ったら気に入られ、赤也と一緒に真田を笑ったら怒られて、柳生やジャッカルに親切にしたら素敵な人認定される。そんなありきたりだけど、夢に見た青春を描くのが、高校生活も終えてしまった二十歳の女の楽しみなんだ。

「よーし、推敲できたらアップするかぁ」

私はスマホのメモアプリで夢小説を書いている。さっとスクロールしながら斜め読みをし、誤字脱字や因果関係に矛盾がないかを見ていく。
だが、その間に私は言い知れぬ眠気に襲われてスマホを持ったまま眠りにつくこととなった。


目を開けるとベッドに寝ていた。ソファにおらんかったけ、いつの間に移動したんやろうな?と体を起こす。その時にようやく自分のベッドですらないことに気づいた。っていうかカーテンに囲まれているしなんていうか保健室のベッドみたいやな。

「…………?」

ここどこや。思考が追いつかへん。まじで意味がわからん。

「ん?」

そういえば服も変わっている。部屋着だったはずなのに見覚えのある制服を身に纏っていた。
どこ高や?妙に立海と似とるけど、どないなっとんねん。
ワンピースの下をちらりと除けば胸元にはRでデザインされたマークが。マジで立海やん。
もしかしたら夢やな、そうやな。夢の自覚がある明晰夢ってやつやわ、これ。立海の制服で学校のベッドにいる夢なんて夢小説の書きすぎちゃうか?ほんま友達に笑われるわ。

「はは、私も末期やなあ……」

なんて呟いていたら、カーテンが開いてびっくりした。

「ひいっ!」
「驚かせてごめんね、体調は大丈夫?」

白衣を着た、おばさんと呼ぶには失礼なくらいの女の人が声をかけてきた。おう、全く大丈夫じゃないくらい戸惑ってるで。

「ここは……?」
「ん?保健室よ。あなた教室で自己紹介の途中で倒れたの覚えてない?」
「あ、ああ、そういえば」

頭おかしい人に思われたくなくて、とりあえず話を合わせた。どうやら私はこの夢の世界では転校でもしてきた生徒なのかもしれない。夢だとしても立海にいるなんて幸せな夢なのでクラスにくらい行こう。そしてあいつらの顔を拝んでから目覚めよう。

「もう大丈夫なんで教室戻りたいんですけど分からんくて……案内してもらえません?」
「ああ、そういうことならサボりがいるからその子に頼むわ」

隣のベッドのカーテンを開けながら先生が「ねえ、仁王くん」と呼んだ。

に、仁王だって!?よくできた夢やなあ!?まあ、夢はその人の理想が映し出されているとかも言うし、さすが私の頭で作り出した夢やわ。我ながら感心するで。これなら目覚めるまでに全員と会える説あるな?

「この子、転校生なんだけどD組にまで送って欲しいの」
「なんで俺なんじゃ」
「先生忙しいのよ。それに仁王くんはサボりってバラされたくないでしょう?」
「んーしゃあないのぅ……」

気怠げにベッドから降りる仁王を凝視する。なんてリアルなんだ。我が夢ながらすごい。格好良すぎて面食らったわ。

「じゃあ〇〇さん、仁王くんに着いて行ってね?」
「わかりました。ありがとうございます」

私は2人に会釈した。そのまま保健室から出て、私は仁王の少し後ろを歩いた。会話はない。せっかく夢に出てきたんだから少しくらい話しときたい。

「仁王くんは何組なん?」
「さあの」

おや、そっけないタイプの仁王雅治ですね。どうしたら会話が続くんやろう?と悩んでいたらあちらが声をかけてくれた。

「おまん、今日から来たんか?」
「そやと思う」
「思う?どういうことじゃ」
「いやあ、自己紹介の途中で倒れたらしいんやけど、目覚める前のこと全く覚えてへんくて、あはは」

夢ならもう何言ってもいいだろうって気持ちで正直に話すと、仁王はとつぜん立ち止まった。あまりに急すぎて私はそのまま彼の背中に激突する。

「いった!」

私の自慢できない短い鼻が折れそうだ。顔を覆っていたら、仁王は急に腕を掴んで顔を覗き込んできた。かなり動揺しているようやけど、私が作り出した夢の仁王雅治、キャラぶれ過ぎちゃう?

「す、すまん」

なんかイケメンが目の前で謝っててしんどいんやけど。
私は見ていられなくて視線を逸らす。すると、まだ慌てた様子で私に声をかけた。とりあえず腕を離してくれんとドキドキで死にそう。

「まじめに記憶ないんか?教室なんか戻っとらんと病院行ったほうがいいぜよ?さっきの衝撃で頭クラクラしとらんか?」

仁王は口早に言葉を紡ぐ。それにしてもすごい心配性やな仁王!そんなキャラちゃうやろ!
っていうかなんか聞き覚えのあるセリフやなあ……ん?セリフ?

その考えがよぎった瞬間、私の頭にある事実が舞い降りてきた。

この展開、今のセリフ、全て私が書いているトリップ小説の冒頭の通りでは?
はい?私は自分の小説を夢で再現しているわけ?やばない?本当に夢小説の書きすぎやん。目覚めたら友達にラインせなあかんわ。

「だ、大丈夫やから、ほんまに」

私はへらりと笑う。どうせ夢なんだから記憶喪失なんて知ったこっちゃない。そんなことよりも他のメンバーに会いたいです。
私が行こや?って首を傾げたら呆れたようにため息をつかれた。

「記憶喪失なんてそんな簡単に片付けたらいかんぜよ」
「大丈夫やで。夢の世界やもん」
「は?」

あ、言ってもうた。まあええか。だなんて未だにヘラヘラする私をぽかんと口を開けて見ている。仁王でもそんな顔するんや、夢の仁王は表情豊かやなー。と、眺めていたら腕から肩に手をやって揺らし始めた。

「おまん、相当やばいじゃろ。今すぐ病院行きんしゃい」
「だ、大丈夫やってば」

そりゃ夢の世界の人にとったら現実だろうしそんな反応になるわな。

「大丈夫なわけなか、何でそんな呑気なんじゃ」

事が大きくなっている気がする。私は後になって口が滑ってしまったことを後悔した。このまま病院に連れて行かれたら、立海メンバーに会えないまま夢から目覚めてしまうかもしれない。

「気にせんといて?うん。ここまででいいや!」

私は逃げることにした。この際、クラスへの行き方は違う人に聞けばいいだろう。

「ありがとーな!仁王くん!」

私は踵を返して走り出そうとする。しかし、仁王は後ろから私の腕を握り引っ張った。彼の体に背を預ける形になる。やはいやばい、マジで夢小説通りなんやけど!?見上げると仁王がこちらを見下ろしている。

「待ちんしゃい、逃げるんじゃなか」
「ひぇええ」

イケメンがまた間近にいるううう。とりあえず本当に夢が覚めて欲しくないので離してくださいいいい!

「あーあの、記憶喪失は嘘です、てへぺろ」
「嘘つくんじゃなか」
「いや、おもろいツッコミ待ちやってん?関東の人マジでツッコミ入れへんしそのまま流してもうたわ」

あははーと作り笑いを浮かべる私を何を考えているか分からない表情で見ている。いやあ、頭上げすぎて首痛いわ。私は頭を下ろして振り返った。

「はっはーん、騙されたなあ仁王くん!」

私はそれっぽい勝ち誇った笑みを浮かべてみる。夢の世界の私が関西から来たかどうかなんて知らないまま関西弁も癖で喋ってるけど、とりあえず仁王を騙せたのならそれでいいか。

っていうか夢小説のままの展開で行くならこのあとに私はお姫様抱っこされて保健室に連れ戻されるという展開になってしまうんだ。それは絶対に回避したいんですよ。嬉しいけど、他の人にも会いたいからなあ。

「まあ、そういうことやわ、うん」
「ほう、ならどうして逃げようとしたんじゃ?」
「仁王くん、真に受けちゃって申し訳なくなって……」

私は俯きがちにそう呟く。ひゃ〜汗かきそうなくらいなんか緊張してます。ほんま逃してください……ってお願いしてたら腕を離してくれた。

「俺の方言聞いても関東じゃとわかっとるなら記憶喪失ではなさそうじゃのう……」

よっしゃ、回避できたでえええ!と思った途端に「いや、そういえば保健室で喋っとったのう」と言い出した。ああー保健の先生、ノーマルな標準語でしたね。

「ここ、何県か分かるか?」
「神奈川県やろ?」
「学校名は?」
「立海大附属高等学校」

腑に落ちたような顔をしている。
お?マジでフラグ回避?やりましたあああ!夢小説通りならばお姫様抱っこで保健室に連行されるところを回避してやりましたよ!!

「とんだ嘘吐く転校生もおるもんやのぅ……おまん、名は?」
「〇〇△△やで」
「出身はどこじゃ?」

私が書いてる夢小説の主人公は神奈川出身やのに大阪とか答えて良いんやろか?まあそのうち目覚めるやろ。それに全く夢小説通りかはわからんしな。うん。

「大阪やで。仁王くんは?この辺ちゃうんやろ?」
「それは言えんのぅ」
「えー何やそれ」

***
めっちゃ途中までですがこんなお話を書いてみたいなっていう。いつか遠い日の私に向けてネタを投下しておきます。
書くなら立海逆ハー、オチキャラ未定、長編、7割コメディにしたいです。

2018/08/13 04:19


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