魔法の指先



「ティナー?疲れたか?」


「ううん、大丈夫だよ。どうして?」


「いや、鍋を混ぜる手がとまってるからさ。」


「え?あっ!」


慌てて無意識のうちに止まっていたお玉をかき混ぜる。
なんとか焦げてはいないようだ。


「ごめんなさい…うっかりしてて。」


「そんくらい大丈夫大丈夫!
それよりティナがうっかりしてるなんて珍しいけど、本当に無理してないか?」


「大丈夫よ!ちょっとぼんやりしてただけだから。」


そうは言ったものの本当はちゃんとした理由があったが、あまり言う気にはなれない。



まさかバッツの手先に集中していたなんて。




ティナは料理があまり得意ではない。最近でこそなれたものの最初は酷いものだった、と自覚しているほどに。

今でも実際に材料を切ったり味付けしたりするのは、一緒に料理当番になった人だ。
しかも料理が苦手な者同士にならないように当番を組んでいるので、大きな苦労もしていない。


今日も同じく、調理のほとんどがバッツの手によってされていた。

見事に切られていく材料、そしてその手付きに見とれてしまっていたのだった。


「うそ、だろ?
じーっとこっちの方を見てたぞ。」


「うそ!」


もしかして気付いていて声をかけていたのだろうか。
見られていたという事実に、ティナは急に恥ずかしくなってきた。


「おれはうそ付いてないぞ。」


彼女の女の子らしい様子にバッツは破顔する。
好きな人ほどからかいたくなるのは多分男の性というものだろう。


「……ずっと見てたの?」


「ちょっとだけな。」


「早く言ってくれればよかったのに!」


「いやーティナがどこ見てるのか気になってさ。
なんで見てたんだ?」


そう話ながらも彼の手は忙しなく働いている。
ティナも今は鍋を混ぜながら話を続けている。


「バッツって器用だなぁって思って…」


「器用?おれが?」


「だって流れるように切っていくんだもの。」


彼は一瞬なんのことかさっぱりだったが、すぐに自分が今までやっていたことだと理解できた。


「ああ、これか!おれは旅で慣れてるからだよ。」


旅の時は当然自炊である。しかもあまり食材の豊富でない状況から作らなければならない。
料理ができるようになったのは自然の流れであった。


「でも、私下手だし……」


「それはやったことがなかったからだろ?
練習すればできるようになるさ!」


「そう…かな?」


「ティナはのみこみ早いし大丈夫だって。おれが保障する!」


「…ありがとう。私、頑張る!」


バッツに言われると、本当にできるようになる気がしてくるから不思議だ。


「そうそう、こういうのは前向きに考えないとな。
おれで良かったら練習も手伝うよ。」


「本当?じゃあお願いしようかな。」


一番最初は料理が出来ないことに驚かれた。
それから自分があまりにも身の回りのことに無知であったことに気づき、少しでも直したいと思っていたのだった。


「ジタンとか、最初すごく驚いてたでしょう?
それで女の子は料理くらいできたほうがいいのかなって思ってたの。」


「あれは気にしなくてもいいと思うぞ。あいつは女の子だから、ってのに押し付けすぎだ。」


「そうなの?」


「そうなの!」


ものまねをしているつもりなのか、かわいらしく言うバッツを見て思わずティナは笑ってしまった。


「あ、笑ったな?」


「だって似てないんだもの。」


「うっ……口調は難しいんだよ。」


「ふふっ。」


くるくると表情豊かに変わる彼といると本当に楽しい。
今も少し拗ねているような顔をしているのを見ると、まるで少年のようだった。


「……でも、本当に気にしなくてもいいんだからな。
料理だって、出来る人にやってもらえばいいんだし。」


「うん、ありがとう。」


「あ、まだふざけて聞いてないか?」


「ちゃんと聞いてるよ。でもね、やっぱり私自身が出来るようになりたいって思うの。」


「そうか。じゃあおれもティナの手料理楽しみにしてようかな!」


と、次は極上の笑顔で彼は言うのだ。

ティナは思いもよらぬ彼の発言に密かに驚いていた。



ただ、一重にあなたのために作りたいから。

その思いをバッツに言えるわけがなかった。













(For you!)




* * *


「Aurum」の早瀬たとさんから相互文でございます。

やべぇなにこれ萌えるvV
きっとこの場は世界的猛暑より暑いんですねわかりますww(は

敢えて言おう。
いや、敢えて言わなくても私の文はこの素敵文を際立ててるために存在しているといって過言ではない。

早瀬たとさんありがとうございました^^







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