綺麗な月夜だった。


こんな夜はいつ振りだろうか。
バッツは出来るだけ足音が目立たないように歩いていた。
テントで寝ている仲間を起こすわけにはいかない。
しかし辺りはしんとしていてその微かな足音すら際立ってしまっていた。

───……もっとよく見える場所はないだろうか。

そう思いながら、気まぐれにふらふらと歩き続ける。
重い瞼を擦りながら。



そこはテントから少し離れたところだった。
木々や草花の緑はまた違った緑色が目に付いた。
それは月明かりに照らされ、一際美しく見える。

「……ティナ?」

確かめるようにその名を呼んだ。
しかし、彼女は気付いていないのか反応は無い。

「ティナ」

もう一度、先程より強調して呼ぶ。
すると彼女は驚いたのか、素早く振り返り一瞬警戒した態度を示したが、バッツの顔を見るとすぐ安堵した表情になった。

「…びっくりした。バッツも起きてたのね」

「おれも驚いたよ。珍しいな、ティナが気づかないなんて」

言いながら彼女の隣に腰を下ろす。
彼女は仲間の誰よりも気配に敏感であり、それ故に先程のようなことがあることが意外だった。

「月が綺麗だったから」

そう言って柔らかく微笑んだ。
眠いのだろうか、彼女は少し俯いて目を擦る。
こんな夜中だから当然だろう。
テントに戻ろうかと催促しようか考えたが、何故だかそうしようとも思えなかった。

───…それにしても。

綺麗なのは月だけではない。
思えばこんな間近で彼女の顔を見るのは初めてな気がする。
彼女が美しいのは一目見れば明瞭なのだが、まさかここまで均整のとれた顔立ちだとは…。

「……どうかした?」

「えっ…あ、いや、その」

不意に声を掛けられ我に返る。
まじまじと彼女の顔を見ていた自分に気づき、無性に顔が熱くなった。
慌てて「なんでもない」と言い訳しようとしたとき、不思議そうに自分を見つめるその瞳を見てバッツはふとあることに気がついた。

「ティナ、目見せて」

わけが分からないといった表情のティナにお構いなしにバッツは瞳を覗き込む。
少し間を置いて、まるで珍しいものを見つけた子供のようにこう言った。

「やっぱり。ティナの目、向日葵が咲いてる」

「向日葵?」

「ああ、瞳孔の周りが向日葵みたいになってるんだ」

ますます訳がわからなくなったティナは、仕返しするかのようにバッツの目をじっと見見つめ始める。
淡い紫の向日葵に彼の姿がくっきりと写し出され、バッツはなんだか恥ずかしくなる。
すると、眠そうだった彼女の顔がぱっと明るくなった。

「バッツにも向日葵咲いてるわ」

「え?」

それは彼女だけの特有のものだと勝手に思い込んでいたバッツは、思わず目を見開いてしまった。

「ひょっとして、おれたち以外にも咲いてるのかもな」

「そうなのかな?」

「明日確かめてみるか」

冗談っぽく言うバッツにティナは「うん」と小さく頷くと、口で手を覆い大きく欠伸をした。
それを見たバッツも釣られて欠伸が出てしまう。
時間的にもう限界だろうか。
特にティナはいつ寝てもおかしくないように見える。

「ティナ、そろそろ戻ろう」

そう言って立ち上がろうとしたがティナは動く気配が無い。
どうしたのかとバッツは目を向けると、ティナは呟く様に言った。

「もう少し、此処に居たい」

「…そっか」

バッツは体勢を元に戻す。
一人テントに戻ることも出来たのだが、こんな真夜中に彼女を一人置いておくことも出来ないし、バッツとしてももう少しこうしていたいのが本音であった。

それから言葉も無く時間は過ぎていく。
実際はそんなに時間は経っていないのだろうが、バッツにとっては十分長く感じた。

ふと、肩が重くなる。
横を見ると、あどけない顔で瞼を閉じている少女。
耳を済ませばすうすうと微かに寝息が聞こえた。
まあ、半ば予想はしていた展開ではあったのだが。

本当なら彼女を抱いて皆のところに戻るべきなのだろう。
しかし自らも眠いせいか、わざわざそんなことをする気も起きなかった。
きっとこんな光景を小さな騎士に見られたら色々と咎められるに違いない。
何故連れ戻さなかったんだとか、敵に襲われたらどうするつもりだったんだとか、そのようなことを延々と言われそうだ。


彼女の柔らかな髪がバッツの頬をくすぐる。
くすぐったいとも感じたが、バッツの意識はそのまま落ちていった。






気がつけば辺りは明るくなっていたが、バッツの上半身には不自然な影が降りていた。
頭上から二つの目玉が、仰向けになっている彼を睨み付けている。
バッツは膝に軽く重みを感じていた。
きっとティナが膝枕でもしているのだろう。
何故そのような体勢になったのか少し気になったが、すぐに"考えても仕方がない"という結論に至った。

「ティナと何してたの?」

顔を中心に寄せて、唸るようにオニオンナイトは言った。
夜中に男女が帰ってこなければそう言われるのも仕方がないだろう。
だがバッツは何も答えず、ただただオニオンナイトの目を見つめていた。

「な、何…」

オニオンナイトはそれに戸惑いを隠せず、思わずうろたえてしまう。
しかし、彼の口からは質問の答えとは程遠い台詞が吐き出された。


「向日葵、咲いてる」

「はぁ?」






* * *

前サイトのを書き直し。
実はタイトル変わってたりしてます。
タイトルを考えるのは苦手なのでいつも本分から引用してましたが、今回はかっこつけてみた。
girasoleはイタリア語で「向日葵」だそうだ。
間違ってたら訂正求む…。


ちなみに、
元ネタはベッキーの目に向日葵が咲いてるというあれです。
どうやら城田優にも向日葵咲いてるんだとかなんとか。
どうやら目の色素が薄い人は向日葵っぽく見えやすいらしい。
アジア人は黒目だから分かりにくいんだってさ。








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