歌声が聞こえた どこか懐かしい、それ故に美しい旋律。 柔らかいテノールは、何故だかどことなく物悲しさを感じさせる。 無意識のうちに歌声の方へと向かっていた。 歌が近くなっていく。 少しずつ、少しずつ。 その先に見えたのは、 茶色い頭と、大きな背中。 少し離れたところで足を止め、思わず聞き入ってしまっていた。 歌声が彼女の体に染み込んで行く。 それがとても心地よい。 子守唄のようにも思えて、少しだけ眠気がやってくる。 その時、歌が止んだ。 棒立ちになっていた自分に気づき、ティナはその背中に歩み寄る。 「素敵な歌ね」 声の主は振り返り、微笑んだ。 照れくさそうに、少し頬を染めながら。 「聴いていたのか」 まさか聴かれているとは思っていなかったのか、後ろ頭を掻くバッツの隣に座り、ティナは彼に釣られて顔を緩ませる。 「バッツって、凄く綺麗な声なのね」 お世辞を言ったわけでは無く、彼女は素直にそう思った。 バッツはますます照れくさくなり、戸惑ったように「照れるな」と呟くのが精一杯だった。 そんな彼のことを知ってか知らずか、彼女は思いついたようにこう言った。 「ねぇ、もう一回」 「え?」 バッツは一瞬何のことだか分からなかったが、一間置いて理解する。 そして彼女はバッツが理解した通りのことを言った。 「もう一回、歌って?」 歌声が響いた。 程好く低いテノールがその場を包み込む。 風の音と木々の掠める音を伴奏に。 ただ一人の観客である少女は、懐郷の情に浸るような感覚に陥る。 両親や故郷といえるものはほとんど覚えてないのだが。 ただ記憶の奥底に、感覚的で曖昧なものではあるが"それっぽい"ものはある。 何故、別の世界の歌でそれが掘り起こされたのかは分からないが、彼女にとっては最早どうでもいいことだった。 歌声に厚みが増した。 透き通るようなソプラノのハミングがテノールに重なり、それらがまるでひとつの音のように混ざり合う。 「ティナの声も凄く綺麗だ」 「本当?」 ありがとう、と少女は微笑んだ。 歌声が聞こえた 物悲しく感じさせる旋律を、透き通る美しいソプラノでなぞっている。 「綺麗な歌だね」 背丈の低い少年が言った。 歌の主の少女は、声の方に振り返る。 「バッツが教えてくれたの」 歌声が響いた。 それは、はるかなる故郷の歌。 * * * 前サイトのを修正。 FF5は未プレイですが、はるかなる故郷は大好きな曲なのです。 |