おれは一歩踏み出した。彼女は逃げる気配も、構える気配もない。そのまま少しずつ近づいた。彼女の目の前に立つ。人が一人通れるくらいの間隔だ。
 改めて彼女と面と向かうと、純粋に綺麗だと思った。いくら人間に対して作り物のようだと思っても、近くで見れば、やっぱり人間なんだな、と思うものだ。でも、彼女は、本当に現実味のない姿をしている。言い方が悪いかも知れないが、人間らしくない。歪みが見当たらない。また一歩踏み出し、手を伸ばす。髪に触れた。物珍しい、緑に染まった髪。痛みのない髪はさらさらで、ふわふわとウェーブがかかっていて。まるで、質の良いテディベアのように、ずっと触っていたくなる。おれがそうしている間も、彼女は抵抗も何もしなかった。そのことにどこか安堵する自分に気付く。拒絶を恐れいたのだろうか。
 急に、彼女の髪に触れていた指先に衝撃が走った。静電気よりも痛い、その程度の衝撃。彼女の額には、サークレットだろうか、何かしらの装飾品が付けられていた。シンプルなデザインだ。でも、彼女には似合わないな。おれはそれに触れてみる。指先にバチリときた。やはりそうだ。これに触れることで、静電気のようなものが起きるようだ。なんてチープな仕掛けだ。これを外したら、道化の都合が悪くなるのだろう。そのことをわざわざ知らせているようなものだ。これを彼女から外せば、何かあるのだ。ああ、わくわくするなぁ、そういうの。何としてでも外してやる。おれは額のサークレットに手を伸ばしたが、触れる直前で手を止めた。さっきおれが触れたときに、彼女も痛みで顔を歪ませていたのを思い出したからだ。

 「ごめん。」

 少し考えてからそう言って、彼女に付けられているサークレットを鷲掴みする。
 手から腕へ、肩へ、身体へ、電流のようなものが駆けていく。
 彼女は絞り出したような声らしきものを吐きながら、痛みに顔を歪ませる。
 サークレットを外そうとするが、なかなか外れない。
 無意識に舌打ちをする。
 掴む手に、思い切り力を込めた。
 ピシッ、と音が鳴った気がした。
 もう少し、もう少しだ。
 大丈夫、多分いけるはずだ。
 ピシピシと音が連なる。
 サークレットにヒビが入っているのが見えた。
 手応えはある。
 よし、このまま耐えれば、きっと。
 彼女の顔がみるみる歪んでいく。
 もう少し痛くなるかもしれない。ごめん。
 ぐっと手に力を込める。
 鈍い音がした。
 おれが握っていた部分が砕け、サークレットが真っ二つになる。
 破片が落ちていく。
 足元から、カラカラと乾いた音がした。
 それとほぼ同時くらいだろうか、彼女の身体が力を無くし、バランスが崩れていく。
 おれは彼女の肩を掴んで支える。
 触れてみて実感したが、見た目のままに本当に華奢な身体だ。
 急いで身体を支えたので、多少力がこもってしまったのだが、たったそれだけの力を加えただけで握りつぶしてしまいそうな、そんな肩だった。







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