さくら色の悪戯

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「そういえば今日、エイプリルフールだね」


なまえに誘われて出掛けている最中、桜餅を手にベンチに座ったなまえがふとそんなことを言い出した。

エイプリルフール…そういえばもう四月か。日付も曜日も特に気にしていなかったから忘れてたが、四月になったということはもうすぐ春休みが終わるわけだ。
“関西風の桜餅見つけたから食べよう!”なんていうなまえの雑な誘いもなくなる……かと思ったが、こいつのそういう誘いは学校があろうがなかろうが変わらなかったな。


「なんでい。なんか嘘でもつこうってか?」
「いやあ、さすがに“エイプリルフールだね”って振っておいて嘘は通じないでしょ」


まさかと思って聞いてみれば、さすがのなまえでもそれは分かっているらしい。こいつのことだからお構いなしに嘘つきそうだったが…

なんて思っていれば、口に含んだ桜餅を飲み込んで、なにやら深刻そうな表情を向けてきた。どこか暗く重く見える空気で、「犬夜叉…」と名前を読んでくる。


「聞いて…実は私…宇宙人なんだ」


……なに言ってんだこいつ。

急に妙な深刻さを出すからなにを言い出すかと思えば、結局嘘つきやがるのかよ。しかもド定番の、誰でも嘘だって分かる適当なやつ。呆れのあまり思いっきりでかいため息をこぼしては、じとー、と睨むような目を向けてやった。


「おめーなあ、つくならもっとマシな嘘つけよな」
「え〜、分かんないよ〜? 私が今まで犬夜叉に隠してただけで、もしかしたら真実かもしれないよ〜?」
「じゃあそんなあっさりバラすなよ」


冷静にツッコんでやればなまえは唇を尖らせながら「もー、ノリ悪いなー」と不満げに言う。むしろあんな雑な嘘にどうやって乗れって言うんだよ…。
そうだな、ここはひとつおれがもっと上手く、なまえが信じてすっげえ驚くくらいの嘘をついてやるか。

よし、なにかいいネタはないか…そう思って考え込もうとした時、不意になまえがおれを見て「あ」と短い声を漏らした。


「犬夜叉、桜餅の粒がついてる」
「あ? どこだよ」
「ちょっと待って。取るから」


自分で取ろうとしたが、なまえが手を伸ばしながら言うもんだから思わず手を下げる。突然の接近にちょっとドギマギしながら身を任せようとすると、なぜか手を伸ばされた右の頬にぺと、となにかがくっ付けられる感触があった。

…おい待て。なまえの奴、やりやがったな。


「おめー…今付けただろっ。取るんじゃねーのかよっ」
「ふふ、騙された。はい、鏡」


文句を言おうとすればなまえは満足そうに笑いながら自分の手鏡を渡してくる。それについ「鏡い?」と漏らしながら受け取っては、言われた通りそれを覗き込んだ。
そこには不可解そうに眉を曲げたおれの顔――その頬に、なまえが言っていた桜餅の粒がついていた。

それも二つ。
桜色の粒が、まるでハートを描くような形で。

思わずドキ、と心臓が跳ねるような錯覚を抱く。言葉が詰まるような思いのまますぐさまなまえを見やれば、なまえは残りの桜餅を口に放り込んで、桜色の頬を持ち上げるように笑みを深めた。


「そういえば今日、エイプリルフールだねっ」


さっきも聞いた言葉を、意味ありげに繰り返される。悪戯っぽささえ感じるその笑顔が憎らしくて、愛おしくて。
「そろそろ行こっか!」なんて言いながら飛ぶように立ち上がるそいつの姿を、おれは真っ赤になる顔でただただ見つめていることしかできなかった。


――頼むからこの悪戯の意味は、本当であってくれ。




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※ 食べもので遊んではいけません! 笑

振り回される犬夜叉くんです。本編よりヒロインちゃんがうわてな感じになったので、ひとまずifとしました! 今後こういう関係になれるといいね。

エイプリルフールネタも久々ですね。もう何度かエイプリルフールをネタに書いているんですが、いつもストレートに告白、みたいな感じのネタだったので、今回はちょっぴり変えてみました。きっと変わっていると信じます。笑

それと、ついでのお話。
特に明記してはいないんですけれど、かごめちゃんが東京住まいで『犬夜叉』の舞台がその辺になるので、『sl』も東京のイメージで書いてます。そのため最初の方に『関西風の桜餅』のワードをねじ込みました。
私には関西風の方が馴染みが深いんですけれど、もうしばらく食べていないので「そんなに粒取れたっけ?」みたいなこと思われたらすみません。このお話の桜餅は取れたということで…。笑



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