やわもち触感

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あまり表情が変わらない人は表情筋が鍛えられにくく、頬が柔らかい可能性がある。

そんな情報をどこかで目にした私が真っ先に思い浮かべたのはもちろん殺生丸さまだった。その話の真偽はなんにせよ、あのお方は全然笑わないどころか感情を顔に出すことが滅多にない。ということは殺生丸さまの頬がマシュマロほっぺである可能性が高いわけで、それに気付いた私は胸を躍らせながら殺生丸さまの元へ駆けつけていた。


「殺生丸さま、ほっぺた触らせてください」
「断る」


早い。目を伏せたままこちらを見ることもなく即答されてしまった。
確かに顔を触られるのはいい気がしないだろうけど、もう少し間をくれてもよかったのではないでしょうか。


「ほんの少しだけ、“つん”だけでいいのでっ」
「…………」


どうしても諦めきれずぱんっ、と音を立てるほど手を合わせてお願いしてみたものの、無言で思いっきり呆れたような目を向けられた。視線が厳しい。

どうすれば触らせていただけるんだ…なんて考えていると、殺生丸さまがほんの小さくため息のような吐息をこぼされた。


「そもそも、なぜ触りたいなどと思ったのだ」
「えー、それはですね…」


かくかくしかじかでして。と簡単に済ませた私の説明に黙り込んだまま耳を貸してくれていた殺生丸さまは少しだけ眉根を寄せられた。

この話にそんな顔をしてしまう要素はあっただろうか、なんてと考えていれば突然「なまえ、」と呼びつけられた。かと思えば指で小さく招かれて、私は短い返事をしながら殺生丸さまの目の前に腰を落としてみる。


「ついに触らせてくれるんですか?」
「そうではない。私が確かめてやる」
「え〜期待したのに〜…って、確かめる?殺生丸さまが?なにを?」


殺生丸さまの謎の宣言に思わず首を傾げてしまえばスルリと伸ばされた手が私の頬に触れた。突然のことにびっくりして硬直してしまう私に構わず、殺生丸さまは私の頬をむにむにしたりつんつんしたりぎゅむぎゅむしたりとかなりご自由に弄ばれている。そ、そんなに触りますか。


「あの…殺生丸さま?ま、まだ終わりませんか?」
「黙っていろ」


はい。

…って、なんで私が怒られたんだ。そもそも殺生丸さまは今なにをされているの。確かめる、ってきっと表情筋云々のほっぺたの感触でしょ?それなら多分最初のむにむにの時点で分かるはずだし、なにもここまで入念にこねくり回さなくてもいいと思うのですが…。

なんだかもうされるがままに身を委ねていると、ようやくと言った頃合いでその手が離された。そして殺生丸さまはご自身の頬にぺたりと触れさせた指を小さく滑らせている。


「…どうですか?」


きっと比べられたのであろう今の行為に問いかけてみれば、殺生丸さまは手の平を見つめながら閉ざしていた口をゆっくりと開いた。


「よく分からんな」


くだらん時間だった、と言わんばかりにストンと手を落としてしまう殺生丸さまに私は唖然としてしまった。

よ、よく分からんって…私のほっぺたをあれだけ好き放題してくれちゃったのに、よく分からんって!これはどう考えても殺生丸さまの頬をしっかり触ってないからだ。やっぱり殺生丸さまのも私と同じようにこねくり回すくらい触らないと!


「私が確かめ直します!」
「触るな」
「ハイ」


せっかく伸ばした手も殺生丸さまの厳しい声に引っ込んでしまった。
ずるい。殺生丸さまは有無を言わさず好き勝手に触って来たのに、私には触らせてもくれないなんて…。

わざとらしく肩を落として落ち込みアピールをしてやれば、殺生丸さまが大きなため息をこぼしてほんの小さく呟いた。


「ただ………」
「ただ?」


あまりに間を空けてしまわれるもどかしさに思わず聞き返してしまうと、殺生丸さまはまるで感触を思い出すかのようにご自身の手を見つめ、指をすり合わせた。


「お前の頬は悪くない、ということだな」


そう囁かれたかと思えば再び私の頬に触れて、先ほどと同じようにむにむにと弄ばれた。…ということは結局、なんの検証にもなってないってことじゃないですか。

なんだかものすごく腑に落ちない思いを抱えるも悪い気はしないこの行為に観念した私は、そのまま大人しく殺生丸さまに身を差し出すのであった。



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以前Twitterで見かけて衝動書きしてました。
アニメとかでも意外と丸みを帯びたほっぺただから、案外本当に柔らかかったりしそうですよね…!



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