夢うつつ

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私たちは四魂のかけらを探して旅をしている。
そんなある日のこと。
歩いている最中にふと自分の服を見下ろした。

…さすがに汚れてる…というより、これはもう洗わなきゃダメだな。

洗濯機なんて便利なものがないこの時代にいると、どうしても同じ服を数日間着続けてしまう。
とは言えやっぱり臭いとか汚れとか…諸々が気になってしまうから、かごめちゃんが現代から持ってきてくれる洗剤でたまに洗うようにはしていた。
というわけで…そろそろこの服も洗い時かな。


「犬夜叉!服洗いたい!」
「あ?…じゃあその辺で休憩するか」


私が勢いよく提案すると、どうやら犬夜叉は眠かったみたいですんなりOKしてくれた。

幸いすぐそばには川がある。
私たちはこの場で休憩することにして、座り込んだり木陰へ荷物を降ろしたりすると各々が自由にし始めた。

さて、私も着替えて洗濯しちゃおう!
確か私の着替えの入ったかばんは犬夜叉が持ってくれていたはず。
そう思って振り返ってみれば、犬夜叉はすでに木陰で静かに横たわっていた。
…私の荷物を抱き込んだまま。


「おーい、犬夜叉ー」


呼びかけてみるけれど返事はない。
犬夜叉はよほど眠かったのか、こんな一瞬の隙に爆睡まで陥ってしまったらしい。
そのうえ枕にちょうどいいらしく、私のかばんをやけにぎゅうぎゅう抱きしめて幸せそうに寝ている。
その姿を見た途端、私の体にきゅーんっと衝撃が走った。

どうしよう…子供みたいですごく可愛い…。
よしよししてあげたくなるような…そんな可愛さ…。

…はっ!ダメだ、完全に心を奪われてた。
可愛いけど、それを返してくれなきゃ私は着替えられない!


「犬夜叉ごめん、それ返して!」
「んー…なまえ…」
「ん?なに?」
「なまえの…匂い…」


ダメだ会話にならない。
完全に寝ぼけてる。

それにしても匂いって…服とは言え、あんまり嗅がれるのはさすがに恥ずかしい…。
どんどん顔が熱くなるのを感じながら、犬夜叉を起こさずに荷物を取り返すには…と考えていると、突然犬夜叉の手が私の手を取った。


「えっ!?あ、あの…犬夜叉っ?」
「…好きだ…」
「!」


ぼそりと呟くように言う犬夜叉。
その瞬間私の顔がさらに熱くなってじんわりと汗をかいたような感覚すら覚える。

い、今のなに…?
聞き間違い…じゃ、ない…?
いやっ、私のことが好きだなんて言ってないし…でもタイミング的にはそんな感じでもあったような、そうでもないような…。

私の頭の中に色んな思いがぐるぐる巡って混乱していると、不意に犬夜叉の手がピク…と反応した。


「ん…?なまえ…」
「あ…おっ、おはよう…犬夜叉…」


寝ぼけた顔で私を見る犬夜叉にひっくり返りそうな声をかける。
すると寝ぼけたままの彼はぼんやりとした目で自分の手に視線を移した。
そう、私の手を握る自分の手を。

途端に犬夜叉がぎょっと目を見開くと、次いでわなわなと振るえながら私の顔を見てきた。


「あっ…!?おれ、なにを…!?」
「あー、えーっとー…聞きたい?」


顔を真っ赤にしながら遠慮がちに問い返す私を見てある程度悟ったのか、途端に犬夜叉まで顔を真っ赤に染めていく。
その反応…やっぱりあの寝言は私に向けられたものだったのかな…。
そう思うと余計に顔が熱くなってくる。
ぱたぱたと片手で顔を扇いでいると、犬夜叉がおずおずと問いかけてきた。


「まさかおれ…変なこと言ってねえよな…?」
「ん、ん〜っ?…うん。寝てる犬夜叉、すっごく可愛かったよっ!」


私が犬夜叉のあの言葉を繰り返せるはずがなく、ひとまず適当にぐっ!と親指を立てて言ってやる。
すると犬夜叉は一瞬だけ面食らったように「なっ…」と声を漏らしたが、すぐに殴りかかってきそうな勢いで迫ってきた。


「誤魔化すんじゃねえっ。おれがなに言ったかなんて覚えてねえが、聞いたこと全部忘れろ!今すぐ!」
「それは…無理」
「やかましいっ!忘れろったら忘れやがれ!」


ぎゃんぎゃん吠える犬夜叉に思わず耳を塞ぐ。
忘れろって言ったって忘れられるわけがない。
あんな嬉しすぎる言葉…なかったことにするなんて、私には絶対無理だ。

私が思いを馳せてる間にひとしきり吠え果たした犬夜叉は荒い呼吸を繰り返して、ふんっと鼻を鳴らすと私に背を向けて座り込んでしまう。


「犬夜叉、ほんとに覚えてないの?」
「覚えてねえよ寝てたんだからなっ」
「そっか…」


少し残念な気持ちが胸に広がる。
犬夜叉がちゃんと起きてる時に、自分の意思で、もう一度言ってくれないかな…なんて思いが芽生え始めていた。

覚えてないなら、思い出させてあげよう。
私はそう決意すると、腕を組んでつーんと顔をそむけるその後ろ姿にそっと声をかけた。


「私も好きだよ、犬夜叉のこと」


囁くような小さな声だったにも関わらずそれはしっかりと犬夜叉に伝わっていたようで。
目を真ん丸に見開いて振り返ってきた犬夜叉の顔を、私はこの先一生忘れないと思う。

…今度はちゃんと告白してね。


end.

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