ふたり、夢の中


『――さんはこれを…』
『へー、そうなんですね〜』


アナウンサーがゆったりとした口調で和やかに会話する情報番組。それを眺める私は犬夜叉の隣に座ってただぼんやりとしていた。

勢いで犬夜叉を招いたはいいけど、やることもないし、夕方のこの時間にやっている番組なんて特に面白いものがないから盛り上がりに欠けるんだよね…。なんて思いながら背もたれに沈み込んでいると、三個目のカップ麺を啜る犬夜叉がまたもテレビのリモコンを手にした。
さっきからずっとこの調子だ。犬夜叉がつまらないと思ったらすぐにチャンネルを変えられる。私も特に見たいものがあるわけじゃないからいいけど、もうずいぶん変えているんじゃないだろうか。
そう思うと同時に、パッ、と画面が切り替わる。


「…ここは釣り番組だね」
「どうでもいいか」
「でも、そろそろ他のチャンネル全部観たんじゃない?」


私がそう言うと、犬夜叉は少し考えてからリモコンをテーブルに戻した。これは諦めたな。そう思い、ぼんやりとしたままテレビを眺める。するとちょうど大きな魚が吊り上げられた。


「おっきい魚ー。ねえ、あの魚なんだっけ」
「あ? 魚なんて分かんねーよ」


私の適当な質問に犬夜叉も適当に返してくる。すると釣られた魚がアップで映されて、名前と重さが表示された。なるほど、ヘラブナっていうんだ。フナってあんな大きいのもいるんだなあ…ちょっとブサイク。
なんて他愛のないことを思っていると、画面下にテロップが流れ始めた。それに気付いて時計を見れば、いつの間にか六時を迎えようとしている。外も真っ暗だ。それを把握しては、ソファにもたれたまま隣の犬夜叉を見やった。


「もう暗いけど、まだ帰らなくて大丈夫なの?」
「どうせ帰っても誰もいねえからな。問題ねえよ」
「そっか…ふあ…」


ふと大きなあくびがこみ上げてくる。うーん、このすごくのんびりしたムード、そろそろ限界かも…眠くなってきちゃった。とはいえ、犬夜叉を放っておいて寝るわけにもいかないし…なんとか目を覚まさなきゃ…。
そうだ、まだお弁当箱洗ってなかったっけ。動けば目が覚めるだろうし、早速やっちゃおう。


「犬夜叉、私ちょっと洗い物するね。犬夜叉は自由にしてて」


って言っても、すでに自由にされてるけど。そう思いながら視線をやれば、「おー」とだけ返してくる彼は変わらずテレビを眺めている。たぶんこのまま次に始まる番組でも見るんだろうな。

放っておいても問題ないだろうし、私はさっさと洗いものを終わらせちゃおう。ソファから立ち上がった私は目を覚ますように頬をむにむにと強く揉んでからキッチンへ向かった。




――けれど、お弁当箱だけの洗いものはすぐに終わってしまって、当然目なんて覚めているはずがない。あくびだってずっと止まらないままだ。

仕方ない、眠気覚ましに映画を見るかゲームをするかしよう。なんて考えながらソファへ戻れば、テレビを眺めていたはずの犬夜叉がうつらうつらと舟を漕いでいるのが見えた。どうやら私同様、犬夜叉も眠くなっちゃったらしい。まあ、あれだけカップ麺を食べればお腹も膨れるしね…。
ほんの小さく笑ってしまいながら隣へ座り直せば、それに気付いたらしい犬夜叉がはっとして眠気を飛ばすように頭を振るった。


「…すっげー眠い…」
「分かる。私もさっきから眠くて仕方ないんだよね…いっそのこと、少し寝る?」
「ああ…そうする…」


よほど限界なのか、犬夜叉は私の提案をすんなり受け入れてソファに深く寄り掛かった。すると一分と待たずして小さな寝息を立て始める。
もしかしたら、私よりよっぽど眠かったのかも。そう思いながら犬夜叉を見ていれば、なんだか微笑ましくて。起こさないようにそっと立ち上がってブランケットを取ってくると、ゆっくりと犬夜叉に掛けてあげた。


(相変わらず、寝顔は可愛いんだよね…)


安心しきったように眠ってしまう犬夜叉を見て思う。不意にそうだ、と思い立った私は携帯を取り出すと、音が響かないようにスピーカー部分を押さえながらカシャリと写真を撮った。ふふ、まさか写真を撮られてるとは思わないだろうな。

満足した私は携帯をしまって、ふあ…とあくびをこぼしながら犬夜叉と同じようにソファへ寄りかかった。


「おやすみ、犬夜叉」


ほんの小さく声を掛けて、静かに目を閉じる。すると規則正しい犬夜叉の寝息に釣られるようにまどろみへ沈んだ私は、瞬く間に夢の中へと引き込まれていった。


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