教科書と邪魔者


私には切っても切れない強い縁の幼馴染みがいる。

家は近所で、幼稚園と小学校と中学校、そして現役である高校もすべて同じ学校で同じクラス。その上席替えをすれば必ず隣同士。たまに他の人と交換してもらってようやく席が離れることはあったけれど、その手を使わない限りはどうしてか絶対に隣になるのだ。

もはや誰かの陰謀なんじゃないか。そうとしか思えないくらい私たちの縁は切れなくて、それも超至近距離で結ばれているらしい。
もはや腐れ縁。自他共にそう思わされる存在、それが私といま隣の席に腰を下ろした、幼馴染の犬夜叉だった。


「はーあ」


席に座るなり突然わざとらしいため息をつかれた。声でかいし、いきなりそんなため息をつかれればこっちだって嫌でも気になってしまう。
だから多分、こいつはわざとため息をついたんだと思う。


「なに。どうかした?」
「悠月、数学の教科書貸せ」
「それが人にものを頼む言い方か」


相変わらずな彼の言い草をバッサリ切り捨ててやる。
そもそも挨拶が先でしょう。顔を合わせるなり突然“教科書貸せ”はいくらなんでも横暴すぎやしませんか? なんて、こいつに言っても仕方がないことだって分かっているから口にせず、じとーとした目で軽く睨みつけてやった。


「大体、犬夜叉に貸しちゃったら私が使えないでしょ。違うクラスから借りれば?」
「あー? 悠月は教科書見なくてもいいだろーが」
「アホかっ」
「いでっ!」


勝手なことを言い出す上に私の机から教科書を抜き取ろうとするもんだからその手を思いっきり引っ叩いた。
私だって教科書を見なくてもできるほど天才じゃない。というか数学は苦手だから教科書は必須。絶対に手放せないのだ。


「忘れたあんたが悪いんだから我慢して。というか、あんた教科書は全部置いて帰ってなかったっけ?」
「持って帰ったんだよ。数学だけな」
「なんで?」
「勉強する以外になにがあんだよ」
「自主勉!? あんたが!?」


とんでもなく信じられない言葉が出てきて思わず大きな声を上げてしまった。ついでに「絶っっっ対ウソだ」って言葉まで口を突いて出た。
その瞬間犬夜叉はすごく不機嫌な顔をして文句を言いたそうにしていたけれど、こいつは今まで授業中は爆睡、必要な時だけあとから私のノートを写していたようなやつだ。私が咄嗟にこんな反応をするくらい当然だって、自分で分かっていないのだろうか。


「つくならもうちょっとマシなウソにしたら? テストもないのにあんたが勉強するわけないじゃん」
「やかましい。いいから貸せよっ」
「いーやーだっ」


またも私の教科書を取ろうとするもんだから慌てて抵抗するように引っ張った。するとその手は案外簡単に離されて、簡単に取り返すことができた。

危うく私の教科書が強奪されるところだった…そんな思いでため息をこぼして抱きしめれば、不服そうな犬夜叉は机に頬杖を突いて言った。


「貸してくれねえなら見せろよ。机くっつけてやるから」


それでいいだろ、とでも言わんばかりに提言してくるけれどなんでこいつは上から目線なんだ…。

机をくっつけるって、絶対授業中に邪魔してくるやつじゃん。なぜか授業受ける気になってるから寝ないだろうし…なんで急にやる気出してるかなー。
返答に困った私はつい納得がいかない顔を露わにしながら「ええー…」とぼやいていた。するとその間を割くように教室の扉が開かれて白夜先生が入ってくる。


「お。せんせー、おれ教科書忘れましたー」
「なんだ、珍しくやる気じゃないか。じゃあ隣にでも見せてもらいな」
「え゙っ!?」
「へっ。だとよ、悠月」


まさかの先生からの指示に愕然とする私とは対照的に、犬夜叉はいたずらっぽく笑いながら机をガタガタと鳴らしながら寄せてくる。その時ちら、と犬夜叉の机の中に数学の教科書らしきものが見えた気がしたけれど、無情にも出席をとり始めた状況に声を上げることもできず、犬夜叉に取り上げられた教科書がふたつの机の真ん中に広げられるのを呆然と眺めることしかできなかった。

こいつ、やっぱりウソついてたんだ。
きっとなにかを企んで、ウソをついてまでこいつは私に接近してきたんだ。

少しでも邪魔してきたらすぐに椅子を蹴っ飛ばしてやる…!


「なあ、悠月…」
「ふんっ!」
「あだっ!? なにすんだよ!?」
「そこ、うるさいぞ」


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