やってしまった。と言葉にしたときにはもう遅くて私は大袈裟にもがっくりと肩を落とした。
今度やるライブイベントで販売するグッズの在庫確認だけをしようとダンボール箱を持った瞬間想像以上に重すぎたその箱は私の腕から逃げるように転げ落ちては中身を廊下一面にばら撒かされて、しかも最悪なことに、折角チラシ類からグッズ類と分けていたのに、ついでにと言わんばかり混ざってしまっていた。また一から整理しなくてはならないという何とも自分の不甲斐なさに苛立ちを覚え、ため息をつきながらも急いで整理をする。生憎人も通らない校舎には誰1人手伝う人もおらず、助けを求める人もいない。自分で招いてしまった事故は自分で片付けなきゃ。とりあえず、箱の中に入っていた詳細用紙を見つつ整理をし始めた。
幸いにも今日は全てのユニットのレッスンを終えていたから良かった。けれど、終わりの見えない作業を目の前にして今日は何時に帰れるかわからない。とにかく廊下に散らばっているチラシを拾ってからまた仕分けて…
「あ!いたいた。お米さーん!…ってどうしたんですか??!」
パタパタと上履きの音が静寂だった廊下に響き渡る。き、救世主が舞い降りた。私はおもわず近づいてきた真白くんを逃がさまいとシャツをぎゅっと強く握った。
『ま、真白くん…!手伝って…!』
ぱちくりと大きな瞳が私を見つめほんの少し瞬きをきてから廊下を見渡し「わかりました。」と可愛らしい笑顔を私に向けた。
1人でやっていた作業より2人でやった方がやっぱり早い。夜までにかかってしまうと予測していた作業はあっという間にも、これはもしかしたら夕方には終わるんじゃないかと淡い期待を見せつついた。はじめから誰かを呼べば良かったかな…でも皆忙しそうだったし…呼べるような人もいなかったからちょうど良かったか、も?
『ごめんね。真白くん。こんな事手伝わしちゃって。』
「いえ、これくらいどうってことないですよ。というか、こういう時誰かに連絡とって助けてもらえばよかったんじゃ…」
『うーん…みんな忙しいし、頼れなかったし…。』
真白くんがたまたまここに来てくれて本当に助かったよ。と言えば、「いや、俺は…」と言葉の続きが聞きとれず思わず横目で真白くんの顔を見つめたけど、わからず疑問符を頭に浮かべながら作業に戻った。
それから数時間経って、漸くチラシ類の仕分けが終わりグッズ類の仕分けのみが残った。これは二種類しか出さないから1人でできるかな。もう時間も遅くなってるし、あまり真白くんを残すと申し訳ないかも…
『真白くん、ありがとう。もうチラシ終わってグッズだけだから帰っていいよ。私があとやっておくから。』
チラシがもう飛ばないようガムテープでダンボール箱を閉じていた時だった。真白くんは「あと少しですし、手伝います。」と言って、グッズの入った箱を開けようとしていた。おもわずその手を掴んでしまいその動作を制する。
『あ、ごめんね。でも本当に大丈夫だよ。あとは私がやるから。』
初めて真白くんの手を握ってしまったけど、真白くんも男の子なんだ…。思っていた以上の手の厚みや長い指先に心臓がどきりと脈打った。指先の体温に後悔を生みながら手放せば、真白くんから両手を強く握られてしまった。驚きのあまり体が跳ねてしまい恐る恐る真白くんの顔を覗き込んでしまう。
「えっと、あの…お、俺がここにいたいっていうか、先輩のそばにいたいって理由じゃだめですか。」
目があうと真白くんは真剣な顔をしているものの、頬が赤くて私も思わず顔が赤くなっては間抜けにも口を開けたままで。何かいい返そうと口をパクパクさせては肝心な言葉が出ずに、黙ってこくりと頷くしかできなかった。
そのあとの作業はなんだか集中ができなくて、隣にいる真白くんが気になってしょうがなかった。それでも普通に接してくる真白くんはとてもズルい人なのだと、指先に残った体温を感じながら作業に戻った。
君といたい口実探し
2017.01.23