*寝取り・腐描写あり
*R18ではないです
*影片くんがかなり病んでます
いつからこんな気持ちになったんやろ。多分、俺がお師さんを支えていかなあかん思ったときから、彼女とお師さんが関係を作ったときからもしかしたら、俺は糸が切れはじめてたのかもしれん。
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師走の朝。寒すぎて身震いをしながら手に息を吹きかけた。真っ白な息は私の手を包み込み一瞬にして暖かさを仄かに感じさせてはまた冷たさに身震いをする。その繰り返しをしてはときたま空へと息を吹きかける。そんな朝が私は愛しく感じた。恐らく、朝の日課である宗を愛でることが私の現在の生きがいでありどんなに辛い日々が続いてもこの365日、午前7時36分23秒に宗と待ち合わせして朝を迎えるのが愛しくてたまらなかった。
私と宗は幼なじみといった関係であり、親同士が決めた許嫁の関係であり、私の恋人。といっても、やっと最近になって恋人になったというのが事実なのだけれど。私と宗は中等部まで同じ学校に通っていた。年齢は私の方が年下だけど、今更宗が年上だからと言って敬語を使うこともない。それは本人も分かってるし、この前ついふざけて『宗先輩。』なんて言った時には違和感があったのか眉間に皺を寄せていた。
高校は別々の学校にお互い通い、私が一方的に宗を待って一緒に登校。15分ほどしかいられないけれど、それでも宗といられることが幸せだった。
ふと人の気配を感じ視線を向ければ、宗と影片くんがこちらに向かってきていた。
『おはよう!宗、影片くん。』
「あぁ。」
「お米ちゃん、おはよう〜っ。朝から寒いな〜。」
影片くんは宗の家に居候させてもらっているらしい。細かいことは知らないけれど、何より影片くんが段々と人間味をしてきたから良しなのかもしれない。初めて影片くんと会った時はまるで人形のようで、そして何かに怯えて壊物のようなそんな気さえしていた。今では私に慣れたのか笑顔を向けてくれるし、朝も一緒に登校してくれるようになったというわけだ。
『今日は少し遅かったけど、何かあったの?』
「んああ…ちょっと俺が遅れたからなんよ。ごめんな〜。」
いつもなら時間通りに来るはずが、数分だけ遅かった。登校時間に支障はないけれど、何せ初めてのことだったから何かあったのかと思った。
『事故とかだったらどうしようかと思ったよ。』
「相変わらず君は大袈裟だな。こんな早朝から車は通らないし。というよりわざわざ騒音塗れの道は歩かないのだよ。」
『まあでも何かあるか分からない訳だし。気をつけるのに越したことはないよ。無事ならいいの。』
そう告げると宗はふん。とそっぽを向いてしまった。私はそれに対して小さく笑った。決して賑やかではないけれど、温かさのある空間に冷たい風が煽るように吹いて居心地が良いと思った。
別れ道の時、幸せを噛みしめながら私は学校へ行くのに駅へと向かおうとしたところだった。
「なあ、お米ちゃん。」
『ん…どうしたの?』
パタパタと影片くんは私に近寄り耳元に口を近づけると思えば小声で「今日、学校終わったら駅前で待っててくれへん?」と耳打ちしてきた。私は疑問に思ったけれど、今日は何もなかったし断る理由もないので二つ返事で承諾した。そうすると影片くんは満面な笑みを浮かべて後で詳細をメールで送ると言って宗を追いかけた。
恐らくといってその承諾をするのに少しの時間をかけて悩んで、彼の異変に気づけば良かったのだと、その8時間後に私は知ることになる。
「俺、お米ちゃんのこと…好きゃねん。」
『え。』
驚きのあまり間抜けな声が出てしまった。公園に連れてこられたと思えば、まさか告白をされるだなんて…。影片くんは下を向いて服の裾をぎゅっと握って、今にでもひと雨きそうな曇り空が空を覆っていた。
『か、影片くん…気持ちは嬉しいのだけど…その…私』
「わかってる!迷惑なことも、お米ちゃんが困ってまうことも。けど、もう自分の気持ちに嘘はつけへんの…」
今にでも泣きそうなその表情を見て、ごめんなさい。と謝ることしかできなかった。
そんなことを想っていただなんて…私ちっとも気づかなかった。ふと影片くんを見ればまた下を向いていて、私はその場にいるのが苦しく立ち去ろうと踵を返した時だった。急に腕を捕まれたかと思うと振り向きざまに何かが私の唇を塞いだ。目を見開けばそこには影片くんがいて、抵抗をしたけれど、虚しく腕をつかまれているせいで力が入らなかった。
呼吸ができない。まるで首を絞められているかのようだ。酸欠のあまり目がチカチカしてきて自分で立つこともできず足が震えた。それに気づいたか影片くんは側にある木に私を押し付け激しくキスをする。舌を入れられ、私の口からはだらしなく唾液が溢れた。その様子に気づいたのか影片くんは私の唾液を舐めとるように顎から首筋にわざとらしくリップ音を立てる。こそばゆさに声が漏れては空気を煽った。
『か、かげひらくん…どうして…』
「ごめんな。お米ちゃん。俺、お師さん取られるの嫌なんよ。」
いつものように笑みを浮かべる影片くんの瞳には私は映っていない。この人は誰を見ているのだろう。
「俺だけのお師さんやったのにな。あんたが現れて俺の人生めちゃくちゃや。」
くしゃりと笑うその表情からは何も私には捉えられない。彼は今何を考え、何をしようとするのか。ただ私に向ける感情は憎悪であることは確かだった。
「せやからな。俺考えてん。どないやったらお師さんが俺を見てくれるのか。」
「俺があんたを食らえばええんよ。あんたは今日から俺のお人形さんになればええねん。」
「そしたら、お師さん。戻ってきてくれるよなぁ〜。」
「なぁ?お米ちゃん、」
ブチっとブラウスのボタンが乱暴に取れた瞬間、私は抵抗しようとした手を下ろし目を閉じた。
私に同情してください。
影片くんからは宗の香りがした気がして、どうしようもなく涙が溢れた。
2016.12.30