扉の前に立つこと早小一時間。先ほどから思い浮かぶ言葉を頭に浮かべては消え去り、眉間にシワを寄せていた。
今日はこれといってフェルと用もなく、一緒にいる口実が思い浮かばない。我ながら自分らしい行動ではないと思うが、たまたま聖杯の巡回が早く終わって書類の仕事も終わらせてしまった。これといってやることもなく、日々の鍛錬をしようと思っていたところ、ふと脳裏にあいつの顔が浮かんだことがきっかけだった。

アルカナデュエロ然り、幽霊船の件から二人だけの時間というものを作ることもなく互いに自分の役目を果たすべくレガーロのために働く日々が多くなっていた。

どうしたものか。

なんと言えばフェルとの時間を過ごせるのか。僕はリベルタのように考えなしな行動が難しい。かといって、デビトのように気障な台詞を吐く勇気もない。いったい僕はなんてフェルを誘えばいいんだ!頭を抱えていると、どこからかあの三馬鹿とリベルタの声が聞こえてくる。まずい。このままここにいたら恐らく僕の邪魔をしようとするだろう。だが、隠れる場所もない。だんだん近づく声に焦りを覚え、無断で先程から小一時間かかった重い扉を易々と開け、部屋の中へと入ってしまった。


『ノ、ノヴァ…どうしたの突然…?』


ノックもせず入ってしまったからか、僕が会いたいと思っていたあいつが目を大きく見開いていた。自分でもらしくない行動から思考が追いつかず停止しかけ、すぐに言い訳する言葉が見つからなかった。


「と、突然すまない。やることがなくて…その…」


『なくて……?』


きょとんと首を傾げる仕草に思わず脈絡が速まる。珍しくもいつもは緊急なときにでも言葉は思いつくはずだというのに、こういった感情の時ほど言葉が出なくなる。いつだって、僕はフェルを喜ばせるようなことは言えない。


「お、お前に会いに来た。…それだけだ。」


素直に言葉を紡ぐとフェルは頬を赤く染め、にっこりと微笑み、こちらに歩いてくる。
すると僕の両手を包み込むと、「私も会いたかった。」と呟かれ、頬に柔らかい感触とともに愛らしいリップ音が聞こえた。





君を誘う口実






口実なんかなくたって、会いたいときに会えばいい。さっきまで悩んでいたことがバカらしくなる。






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舞台アルカナの影響です。ご察しください。
ノヴァちゃんかっこ可愛かったな…


お題:コランダム様
2016.01.28



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