トナカイに乗って (サンプル)


※一部抜粋(実際の本では縦書きです/読みやすいように改行入れてます)


今年のクリスマスはイブも当日も平日で。学生のわたしたちにとっては稼ぎ時。

瑛くんはもちろんバイト。わたしも…バイトの予定だけど、一応、シフトは午前中から夕方で入れてもらった。

早めに帰って、瑛くんと過ごすための準備をしたかったから。だってせっかくのクリスマスだし、やっぱり瑛くんと一緒にいたい。

それに…、あの日から、わたしたちにとって、クリスマスは特別だから。

ぴかぴか、ちかちかと、街がイルミネーションで彩られる。明るい雰囲気の街をひとりで歩くのは、ちょっと寂しい。もちろん、それだけが理由じゃないけれど。

やっぱり、どんなに遅くなっても瑛くんと過ごしたい、な。そう思ってしまうのは仕方のないことだ。

パーティなんてしなくていい。プレゼントもなくてもいい。ただ、瑛くんと一緒に過ごしたい。

クリスマスだし、瑛くんが遅くなるのは分かりきっているけど…、少し考えて携帯を取り出す。クリスマスの日、帰りにウチに寄れないか、瑛くんにメールをしてみた。

返ってきた返事は、『行けるとは思うけど何時になるか分からない』という、瑛くんらしいとてもシンプルなメール。何時でも構わないから待ってる。と返信したら、『寝てていい』とこれまたシンプルなお返事。

『了解』とメールを返して、小さなため息を吐いた。

この様子じゃきっと、瑛くんが帰ってきても一緒にご飯は無理かな…?

だけど、ウチに来てくれる気持ちはあるみたいだし、一緒に過ごすことが、大切だから。
ほんの少し沈んでいた気持ちが浮上して、嬉しい気持ちになった。


クリスマスイブ、恋人たちの日…、というのは分かるのだけれど、人が多くて、正直驚いた。だって、平日なのに。みんなやっぱりクリスマスって特別なのかな?

目まぐるしくお仕事をこなして、夕方に上がるはずだったのに、もうすっかりと夜、と呼べる時間になっていた。

休憩すらまともに取れなかった…と、ぐったりしながら家に帰る。

「お買いもの…、昨日しておいてよかった」

ぽつりと独り言をつぶやいて、ただいまー、と玄関を開けると、見慣れないものが視界に入る。

「あれ…?」

そこに置かれていたのはそこそこ大きな箱。

「…? 瑛くん、来たのかな…?」

玄関先に置かれた箱。合鍵は瑛くんしか持っていないし、そうとしか考えられないけど。
クリスマスラッピングの定番の緑と赤の包装紙に、同じ色のリボン。

「これ…、もしかして、瑛くんからのクリスマスプレゼント…かな?」

パッと気持ちが明るくなって、玄関に鍵をかけて、いそいそと箱をリビングに運ぶ。

箱の大きさの割に思ったより重たくない。

ドキドキしながら箱を開けてみたら、茶色い角が入っていた。

「へ…?」

取り出して、よく見ると角がついたカチューシャだった。

「…トナカイ?」

他には、胸元が白いふわふわに覆われたストラップレスの服に、鈴が付いたチョーカー。次々に出てきたものに、首を傾げる。

「どうしてサンタさんの衣装じゃないんだろう…?」

クリスマスと言えばサンタさんのような気がするのに。でも、このトナカイの衣装も可愛いっぽいけど…。せっかくの瑛くんからのプレゼントだから、着てみようかな…?

その前にお風呂に入っちゃおう。これ、パジャマ代わりにもなるのかな?

もこもこして、あったかそうだし、角は…さすがにつけては眠れないかもしれないけど。
お風呂に入ってあったまった後、もぞもぞとトナカイの衣装に着替える。

思った以上に…かわいい、かも?

鏡に映った自分の姿をみながら、くるくるとその場で回って全身をチェックする。

タイツの足首には茶色のぽんぽんがついていて、もこもこしたスカートは短めだけど、ぽよんとした尻尾もついていた。今はこんな可愛いトナカイがあるんだと感心する。

ほんのちょっと寒いけど、部屋の中は暖かいし…。

…瑛くん、喜んでくれるかな?

瑛くんの顔を想像して、トナカイの角のカチューシャをつけた。

トナカイの衣装を着たせいで、テンションが上がって、部屋の中も少しだけ飾りつけをして、瑛くんを待つ。浮かれた気分で買ってしまったクリスマスグッズ。

そうだ。玄関を開けた瞬間に、クラッカーを鳴らして、メリークリスマスって言って抱きついたら、瑛くんビックリするよね?

頭の中で妄想…じゃなくて、シミュレーションを繰り広げながら、ふふっ、と笑う。

そろそろバイトも終わるかな? 廊下でクラッカーを鳴らす練習を(頭の中で)しながら、時間が経過する。

「う…寒い」

毛布を持ってきて包まって、廊下に座って、じぃっと扉を見つめる。これじゃトナカイというよりも、ご主人様を待つ犬みたいだと思ったけど、瑛くんの驚いた顔を見られるのなら…、それだけでご褒美だ。

「はやく…、かえ、って、こない…、か、な…」

ふあ、と大きなあくびをして、頭から毛布をかぶって包まる。

ちょっとだけ、ちょっとだけ…寝ても、いいかな…? 大丈夫、瑛くんが帰ってきたら…気づく…か、ら……。




※2015.2.22 ラヴコレクションにて発行予定



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