Sweetest Days (サンプル)


※一部抜粋(実際の本では縦書きです/読みやすいように改行入れてます)


ある日、彼の部屋でエッチな本を見つけてしまった場合。
さらに、それを見ている現場を当の本人に見られてしまった場合。
みんな、その時、どう対応しているんだろう?

たまたま、放り出してあった雑誌をぱらりと捲って固まってしまったのは、わたしのせいじゃないと思う。男の人と、女の人が裸で重なり合っている衝撃的な光景に、思わず凝視してしまった。

なんというか、まさかこんなものを瑛くんが見ているだなんて、思ってもいなくて。信じられない気持ちと共に、心臓がドクリと音を立てる。

「…おまっ、それっ…」

コーヒーを淹れてきてくれた瑛くんが、トレイを持ったまま、わたしは雑誌のページに手をかけたまま、ぱちりと視線が合って、はっ、と我に返ると、慌てて雑誌を閉じる。もちろん、そんなことしてももう遅いけど。

「ご、ごごごめんっ、こんなとこに置いてあるからなにかな…、って…」

言い訳をしながら、さっきの写真が頭に浮かんでしまって、頬が熱くなって視線を下げた。

「ま、待て、違う。これは俺のじゃなくて、針谷が無理矢理…っ」
「そ、そっか。ハリーが…へ、へえ…」

なんか、また別の意味で衝撃だ。こういう雑誌って、男の子の間では当然の物なのかな…?

瑛くんもなんだか挙動不審になりながら、コーヒーカップの乗ったトレイを勉強机の上に置くと、カップをひとつわたしに差し出してくれる。

「ほら、飲むだろ」
「あっ、ありがと…」

無理やり微笑んで、カップを受け取って、そのまま口に運んだら、思いのほか熱かった。

「あ、あつっ、」
「バカ、気をつけろ」

そう言われても遅い。舌がピリッと少し痛いから、火傷したかもしれない。猫舌だから、コーヒーの温度がちょうどよくても、少し冷まさなくちゃいけなかったのに。

「あ、あふゅかっ、ひゃ」
「…って、おまえ、火傷したのか?」

こくこくと頷くと、瑛くんがわたしの手からコーヒーカップを奪う。それを机に置いて、わたしの顔を覗きこんだ。

「どこ? ちょっと見せてみろ」
「へぇいき」
「いいから」

瑛くんの少し怒ったような顔に、ぺろ、と舌を出す。

「…ちょっと赤くなってる。水、持ってこようか?」

ふるふると首を振る。口の中だから、たぶんすぐに治ると思うし…。そんなことを考えていたら、わたしの舌に何かが触れて、ピリッと痛んだ。

「ふっ!?」

温かい感触。目の前にある瑛くんの顔。どうやら、わたしの舌を舐めたらしいということは分かったけど。

「ふひょぉっ!」
「…色気のない声だすなよ」
「だっ、だ、だ、だって…な、ななんで」

突然なにをするのかと問いただそうとすると、瑛くんが、ぎゅ、とわたしを正面から抱きしめてきた。

「うるさい。火傷なら舐めておけば治るだろ」
「そっ、し、舌っ…」

上手く言葉が出てこない。

「な、舐める…なんて」

そんなとこ、舐める必要性は全くないよね!? だって、口の中だし!

「…はあ、ほんっとおまえお子様だな」
「へ? えっ? てっ、てて、瑛くん!?」

スッ、と背中を撫でられて、ビクッと身体が震える。
舌を火傷したことなんて、すっかり忘れて、あわあわと慌ててしまう。

近づいてくる瑛くんの唇と、自分の唇が合わさる。柔らかくて、温かい感触に、またぎゅっと目を瞑った。

キスをするのは、初めてじゃない。

瑛くんからの告白を受けた時にもされたし、その後も、たまにすることがあった。
触れ合う体温はとてもドキドキするけれど、幸せな時間で…、いつも優しく触れて離れていくのに、今日は、なぜか唇をぺろりと舐められて、驚く。

「あかり…、口、開けて」
「?」

どうして? と問いかける暇なくもう一度塞がれて。

瑛くんに言われたように、口を開けると、その隙間から、生温かいものが入ってきて、ビクリと身体が震える。

「ふ、んんっ…!?」

それが瑛くんの舌だと気づくと同時に、チリ、と痛む舌の先に瑛くんの舌が触れる。
おかしな感触に背筋がゾクリとする。思わず瑛くんの腕から逃れようとしたけれど、後頭部と腰に回された手がそれを許さない。

ゆっくりと、わたしの口の中を動き回る瑛くんの舌に、くらくらする。唾液が口の中に溜まって、苦しくて、キスの合間になんとか呼吸をする。酸素が足りなくて、頭がぼんやりと霞んでいくような気がした。

「は…ぅ、て、るく…」

苦しくって、なんとか呼吸をしながら、やめてもらおうと名前を呼ぶ。

「…っ、あかり…っ」
「ふひゃっ」

ぼふ、とベッドに身体が押し付けられて、瑛くんがわたしに覆いかぶさってくる。

「ちょ、て、瑛くんっ!?」

洋服でお布団に寝っころがるなんて、汚い…、そう思って起きあがろうとした時、お腹のあたりに瑛くんの指先が触れてぴくっと身体が震えた。

「んんっ…」
「なぁ…」

くるりくるりとお腹を撫でさするような瑛くんの指先の動きがくすぐったい。

「にゃっ、に?」
「ぷっ、ほんっと、おまえって…雰囲気ぶち壊すよな」
「やんっ、擽った…っ、ふふっ」

呆れたように言った癖に、瑛くんの手の動きは止まらなくて、こそばゆい。

「くすぐったいだけ?」
「え? …っ、ちょ、待って」

つー、と指先がお腹の上にまで上がってくると、胸に触れた。もちろん服の上からだけど、すごく、恥ずかしい。のに、瑛くんがふにふにと胸を揉む。

「きゃっ、ちょ、て、てて、瑛くん! やっ」

胸を揉まれて、思わず瑛くんの手首を掴むと、その動きが止まる。

「…嫌?」

じっとわたしを見つめて、そう聞いてくる。もしも、わたしが嫌と言ったら、瑛くんが傷つくような気がする。

それに…、イヤかイヤじゃないかと問われると、嫌…、では、ない。

「……い、嫌って言うか、恥ずかしいよ…」

瑛くんの胸に触れる手から伝わる体温にドキドキしてしまう。

「嫌じゃ、ないんだな?」

確認されるように言われて、おずおずと頷く、と瑛くんがホッとしたような表情を見せた。

「瑛くん…? ん…っ」

そのまま、優しいキスが降ってきて、目を閉じる。瑛くんとキスをするのは好き。いつもうまく伝えられない自分の気持ちが、少しは伝わるような気がするから。

温かくて、いつもドキドキするんだけど、今日の瑛くんはちょっとおかしい。

「て、るく…、どう、した、の…っ?」
「…あの、さ。俺…」

瑛くんの少し掠れた声に心臓が跳ねる。なんだか、その声に、ぞわぞわしてしまう。

「…みたい、んだけど」
「みたい…? って、なにを?」

ほんの少し迷うように視線を彷徨わせて、だけど、ふ、と息を吐くと、わたしをまっすぐに見た。

「おまえの裸」
「わたしの…? はだ……えっ!?」

一瞬、理解ができなかった。

ちょ、ちょっと待って、今、瑛くんなんて言った?

「これ、脱がしてもいい?」

くい、とわたしのワンピースの肩ひもを少しずらす。

「ちょ、ちょ、ちょ…、ちょっと待って…! 瑛くん、なに冗談っ…」
「冗談でこんなこと言うはずないだろ?」

そ、それはそうなのかもしれないけど! だけど、なんでいきなり?

「でも…」
「俺たち、付き合いはじめてもう半年経つよな?」
「え? う、うん…」
「結構、待ったと思うんだけど」

言われた意味を考えてみるけど、なにを待ったのかがよく分からない。

「待った…って? なにを?」
「……だから…それは…、ああもうっ」

瑛くんが、ほんの少し考えるような表情をした後、なんだか不機嫌そうな顔でわたしから離れて、なにかを手に戻ってきたと思ったら、ぽこん、と頭を叩かれた。

「え、な、なに…?」

目を瞬くと、叩いたそれをわたしに渡す。
それは、さっき偶然に見てしまった雑誌。そして、その内容を思い出して、顔が熱くなる。

「それ、貸してやる」
「え?」
「だから、おまえも少しは勉強しろ」
「え、ええっ?」

これを見て勉強…。勉強…? なにを勉強しろというんだろう…?

「で、今度の週末…、またここに来て」

瑛くんが、微妙に視線を逸らしながらそう言った。

「これ…で、勉強…? 読めばいいの?」
「俺も、準備しておくから」
「うん…?」

よく分からないままに頷いたことを後悔したのは、家に帰って借りた雑誌を読んだ時だった。




※2014.11.3 ラヴコレクションにて発行予定



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