紺野先輩の場合


生徒会の資料を纏めていると、コンコンと控えめなノックが聞こえた。

「どうぞ」

資料から目を離さずに返事だけすると、カラリと小さく扉の開く音が聞こえて、僕の名前を呼ぶ声。

「…紺野先輩」

その声に、顔を向けると、カメラを持った瑠桜さんがニコリと僕に微笑んでいた。

「瑠桜さん、やあ、こんにちは」
「こんにちは。やっぱり紺野先輩は生徒会室が似合いますね」
「はは、そうかな?それより、なにかあったのかい?」

作業の手を止めて、瑠桜さんの方を向くとほんの少し首を傾げた。

「えっと、お邪魔…ですよね?」
「いや、そんなことはないよ。ちょうど休憩しようと思っていた所だし」
「本当ですか?あの…紺野先輩」

ほんの少しだけ緊張したように顔をあげるから、僕も少しだけ緊張した。

「瑠桜さん?」
「不躾なお願いですが、写真、撮ってもいいですか?」
「…え?写真?」

唐突な申し出に、理解するのが一瞬遅れた。

「えっと、実は、ずっと欲しかったカメラを買いまして、で、せっかくなので、先輩も撮りたいな…って」
「僕を?」

コクリと、微笑んで頷く。その様が可愛くて嬉しくなった。

「もう、卒業ですから、制服姿の紺野先輩を撮れるのも、後少しでしょう?」
「…そうだね」
「あ、もちろん、誰かに見せたりとかはしませんし」
「卒業アルバムにでも使うのかと思った」

ふ、と笑うと、クスクス笑う瑠桜さん。

「そうですね。上手く撮れたら売り込んじゃおうかな?」
「はは…、冗談だよ。売り込まないでくれ」

こんな風に瑠桜さんと話せるのも後少しだと思ったら、ほんの少しの寂しさが胸に落ちた。

「いいカメラを買ったんだね」
「はい、だから嬉しくて。色々と撮っておきたいな、って」
「僕のことも?」
「ええ。紺野先輩のことも」

ほんの少し首を傾げるのは彼女の癖みたいなものだけど、可愛い仕草だと思う。

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

彼女の本心は全然分からないけれど、それでも、僕を撮りたいと言ってくれただけで嬉しいと思う。

「紺野先輩は、やっぱり生徒会室が一番似合ってます…と言うか、教室で勉強していても似合うのでしょうけど、わたしは、ここにいる紺野先輩しか知りませんから」
「ああ…そうかもしれないね」

僕の三年間は、生徒会ナシでは語れない。

「じゃあ、さっきの続きをどうぞ?」
「え?」
「資料を纏めてる所を撮らせてください。自然な姿を撮りたいんです」

言われるままに、資料に目を落とすけど落ちつかない。カメラを通して、彼女が僕を見つめているから。

「先輩、顔が引き攣ってますよー!もっとリラックスして下さい」
「こ、こうかな?」
「ふふっ、そんなに緊張しますか?」
「まあ、いざ、撮るってなるとね…」

ほんの少し苦笑して、瑠桜さんを振り向くと、構えていた筈のカメラは顔から外されていた。

「もう撮ったの?」
「いいえ。もう少し待ちます」
「待つ…?」
「紺野先輩の緊張がとれるのを。わたしのことは気にしないでください」

たわいない会話を交わしながら、資料のまとめを始める。
瑠桜さんとのおしゃべりが楽しくなってきた時、カシャリとシャッターを切る音が聞こえた。

「え?」
「ふふっ、先輩、楽しそうないい表情していましたよ」
「本当かい?」

彼女が見せてくれた写真は、自分でも恥ずかしくなるくらい、よく撮れてると思った。

「どうですか?」
「ああ…いいね。ありがとう」

君の目にも、こんな風に僕が映っているといいのに、と思いながら、微笑んだ。




※言い訳タイム→撮影場所、生徒会室。紺野先輩はそこしか思いつきませんでした。先輩組は場所が考えやすかったです(笑)
ここまでお読みいただきありがとうございました。



戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -