嵐くんの場合


道場に座って精神統一していると、カシャリと言う音が聞こえて、目を開ける。

「ん…?…瑠桜、どした?」

ハッとした表情で俺を見て、ほんの少しだけ微笑む。

「ごめん、思わず一枚撮っちゃった」

女が持つにはわりとデカイ気がするカメラを少し持ち上げて、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をする。

「別にかまわねーけど、なんだ?」

そう訊くと嬉しそうな表情で口を開いた。

「あのね。わたし、ずっと欲しかったカメラを買ったの。それで、せっかくだから、いろんな写真が欲しいなぁって。それで、嵐くんの写真も…って思って」
「俺の写真?」
「教室でのお弁当食べてる所でもよかったんだけど。流石に授業中はね?」

そう言って、ふふっと笑う瑠桜に、ニヤリと返す。

「別に構わねぇぞ。怒られんのは、おまえだけどな」
「もうっ、授業中にそんなことしないよ!」

予想通りの反応に、思わず笑った。こんな瞬間がすげえ、好きだと思う。そんな瑠桜が、ふいに真剣な表情で俺を見つめる。

「ね…、柔道してる所、撮ってもいいかな?」

柔道をしているところ。となると相手が必要だ。

「じゃあ、おまえが相手になるか?」
「えっ?ええっ?無理だよ…って言うか!それじゃ写真が撮れないじゃない」

からかったつもりの言葉を、本気に受け取る瑠桜が可愛くて、堪え切れずに笑うと、頬を膨らませた。

「もう…っ、わたしは真剣に言ってるのに」
「悪ぃ、だけど、そんなに必要なんか?写真」
「だって、青春だよ?!」
「ぷっ、青春って、おまえ」

そんな台詞でも、きっとコイツは真剣に言ってるんだろうと思う。

「わ、笑わないでよ。嵐くんなんて一番青春してるっぽいのに」
「青春?俺がか?」
「うん。だって、柔道してる嵐くんって、すごく綺麗だよ」
「綺麗?」

つーか、どこが綺麗なんだ?怪訝そうな顔に、瑠桜がちょっと小首を傾げる。

「嵐くんが柔道大好きって、全身が喜んでいる感じがして、すごくキラキラしてるんだよ」
「へえ、んなこと言ったの、おまえが初めてだ」
「え?そ、そう?」

思いがけない言葉だったのか、少しだけ恥ずかしそうに視線を逸らす。

「でも…そうか…おまえにはそんな風に見えんのか」

コイツの目に、俺はどんな風に移ってるんかな?綺麗って、そんな視点で柔道を見たことはねえけど…。

瑠桜をじっと真っ直ぐに見つめると、視線を逸らさずに俺を見つめてくる。

こういうとこ、すごくいいと思う。

「よし、んじゃ、写真、頼む」
「撮ってもいいの?」
「ああ。おまえが見えている世界を、俺も見たくなった」

瑠桜が見てる世界を、たとえ、カメラ越しでもいいから。

「え…」
「どうした?変な顔して」
「へ、ヘンって、ヒドイよ!」

目を瞬いて、それから、ふわりと柔らかく、嬉しそうに笑う。

「瑠桜?」
「…ううん、すごく、嬉しいな。って、わたしの見えている世界って表現に、ちょっと感動しちゃった」

それから、律儀にペコリとお辞儀をした。

「嵐くん、ありがとう、わたし、絶対にいい写真撮るからね」
「別に、いい写真じゃなくてもいい」
「え?」
「素直に撮った写真でいい」

上手いとか、下手とか、んなことは関係ないんだ。

おまえが見てる世界をそのまま見せてくれればいい。
おまえに撮られるなら、どんな写真でもかわまわねーと、そう思う。

なぜか真っ赤になった瑠桜を真っ直ぐに見つめた。




※言い訳タイム→撮影場所、道場。もう嵐さんはここしかないですよねー。柔道部入らないとほぼスチルがないし…。うん。イメージ通り!
ではでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。



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