Happy Birthday Teru Saeki | ナノ



秘密 #8

黙ったわたしに、瑛くんがポツリと呟いた。

「…おまえずるいんだよ」
「え?」

もうすぐ着く、瑛くんのアパート。わたしを軽々と抱えあげたまま階段を上る。

「俺に、振られようっていうのが、おかしいだろ。つーか、別れたいならハッキリ言えよ。別れたいって」
「‥だって、そうでしょ?」
「は?俺がおまえを振るってのか?」
「‥‥‥話、聞いてくれないの瑛くんだよ?」

さっき、最後に言ったセリフを思い出した。
でも、言ったことは間違ってないと思う。たぶん。

「ウルサイ。聞いたんだ。大学のヤツに、おまえが男と会ってるって」
「へ?なに?それ」

今日のお昼に会った時に、瑛くんがあんな態度だったの‥って‥。

「アイツが、そんなことするわけないって、言った。そうしたら、証拠もあるとかいって、写メ見せられた‥。少し遠かったけど、写ってたのは…男の頭と、おまえの笑顔」

そこまで言うと、わたしを抱えたまま器用に玄関の鍵を開けた瑛くんが、部屋に入った。

「あ、あの、それ‥は?」

確かに、その話には心当たりがある。

「俺がおまえを見間違えるわけないだろ?それに、おまえの顔」
「‥顔?」

たぶん、それは初めて葉月さんと会った時のことだと思う。先輩がトイレに立って、わたし、間がもたなくてずっと瑛くんの話をしてたんじゃなかったかな?

「‥笑ってた‥。嬉しそうに、幸せそうに‥」

わたしに聞こえるとは思ってなかったと思うけど、距離が近いから、その言葉が聞こえた。瑛くんの話をしてたから、だと思うと、少し恥ずかしくなった。

「ここ最近、態度もおかしかったし‥おまえが何か隠していることは分かった。だから、問いただそうと、店の前で待ってた。‥けど、おまえ、全然出てこないし‥そうしてるうちに、あの人が店に入っていくのが見えた」
「葉月さん‥?」

瑛くんが頷きながら、お風呂場に入ってゆっくりとわたしを下ろす。
お風呂の淵に腰掛けるように座らされて、少し驚く。

「え?な‥なんでお風呂場?」
「足、洗わないと黴菌入るだろ」

平然とした表情でそう言ってシャワーを出した。痛いけど、冷たい水が気持ちいい。荷物を抱えたままのわたしは、ボケっと瑛くんが洗ってくれる足を見ていた。

‥どうして、わたしはこんなところにいて、こんな風に瑛くんと話しているんだろう?

疑問に思いながら、されるがままになっていた。

タオルで丁寧に足を拭いてくれている、瑛くんの頭を見ながら訊いてみる。

「どうして‥わたしをここに連れてきたの?」
「ウルサイ。ちょっと黙れ」

そう言うと、またわたしを抱きあげた。

「きゃ」

お風呂場からリビングへ、今度は瑛くんの部屋のベッドに降ろされる。

「あ、あの‥?」
「だから黙ってろって」

さっきからずーっと不機嫌なままの瑛くん。
動こうとすると睨まれるから、大人しくしておくことにした。

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