適材適所という言葉がある。
適性や能力に応じた仕事や地位に就かせることをいうのだが、それを鑑みると家庭というものは私にとっての適所ではないのだとつくづく思わずにはいられない。
煮炊きは得手ではないし、掃除や洗濯なども面倒だ。
そもそもなぜ私がそれをしなければいけないのかが理解出来ない。
今まではそのようなことに関わってこなかったのだし、私のこの意見は当然だと言えるだろう。

だが、こちらの世界ではそれらをするのが当然で、元いた世界のように身の回りの世話をするような人間が常に邸にいるわけではないらしい。
確かにこの世界の邸は小さく、部屋も数部屋しかないのだから幾人もの人間が一つの邸に留まり生活するのは難しいだろう。
となれば、邸の主である私がするしかない。
どれほど考えたとしても堂々巡りだった。

龍神から必要最低限の知識は与えられたが、それが実践出来るかと言われれば別問題だ。
電化製品と呼ばれるものの操作や、調理器具の扱い方、ボタンを押せば経験のない私でも簡単に出来るだろうということは分かる。
けれどやはり、面倒なのだ。

(問題はこれだけではないしね……)

ちら、と視線を動かせば、ぼんやりと立ったまま動こうとしない男の姿が目に入る。
この世界―――ゆきくんの世界に旅立ったのは私だけではなく、なぜか対の男がついてきたのだ。
ゆきくんに固執するがゆえなのかと思ったのだがどうやらそれだけでもないようで、真っ先にゆきくんのところに向かうかと思いきや、もう半刻はぼうっと立ったままなのである。
放っておけばいいだけの話ではあるのだが、如何せんそう出来ない理由があった。

龍神から与えられた知識、記憶によれば、どうやら私と対の男、桜智は同居していることになっているらしい。
勿論追い出すことも、私が出て行くことも可能だけれど、この世界にやってきて初日の今日、そんなことが出来るはずもない。
つまりは当面はこのまま二人で暮らすしかない、ということになる。
桜智が私の不得手な部分を請け負ってくれるのであれば有り難いけれど、この男が煮炊きし、洗濯している姿など想像もつかない。
家事が苦手な男二人でこれからどう生活していこうか。
考えるだけで頭が痛い。


(中略)


※少々性的な表現を含んだサンプルとなります。苦手な方は回れ右してください。























「桜智、もっと君の好きにしていいんだよ」

しっとりと汗ばんだ肌をゆるゆると撫でている最中に突然そう言われ、帯刀は白い肌から目を上げて帯刀を見た。
期待に潤んだ瞳や上気した頬は確かに桜智の愛撫に感じているそれだというのに、もしやこれでは物足りなかったのだろうか。
そう思うと急に不安になり、桜智は情けなく眉を下げると、ごめんね、と小さく呟いた。

「ああ、違うよ桜智。不満があるとか、そういう意味じゃなくてね」

ちょいちょいと手招かれ、桜智はおずおずと帯刀の顔に己の顔を近づける。
覗き込めば頭を引き寄せられて唇が重なった。
誘われるままに舌を差し込み、熱い口腔の中を隈なく舐る。
絡み合うぬるついた舌は否が応でも性交を連想させ、桜智の腰元が一層重く熱を帯びた。
しかし興奮のままに帯刀に触れるわけにはいかず、互いの唾液で濡れた唇を離して深呼吸を一つ。
熱を散らすのは容易ではないが、帯刀の負担を思うとこれくらいはどうということはない。

「…ほら、それ」

耐える桜智をじとりと睨み、帯刀は唇をぐいと手の甲で拭った。
今のキスが気に入らなかったのだろうか。
今日はどうにも不興を買うばかりで上手に帯刀を気持ちよくしてやれない。

「もっと、軽い口付けの方がよかったね…。口許を汚してしまって……ごめん」
「だから、それ。私が言いたいのはそれなのだけど」

溜息とともに帯刀の手が無遠慮に桜智の熱に伸び、握り込まれる。
行為には積極的なタイプの帯刀だが、この流れで触れられるとは思ってもおらず、反射でびくりと身体が跳ねた。

「こっ……小松さん…っ」
「こんなに硬くしているくせに。もう挿れたいんじゃないの?」
「あ、あの、……でも、まだあなたの方が……」
「私だって、…ね」

桜智の反り立つものから手を離した帯刀は、腰を引き寄せるとぐっと自分のそれを押しつけてきた。
硬くて、熱い。
桜智に感じてくれている証拠だ。

「ああ……」

感嘆の溜息を零し、桜智はぽわんと頬を染める。
先程までの不安がぱっと霧散し、もっと気持ちよくしたいとそればかりが頭を支配した。




全体的にご家老を好きすぎる桜智と、オカン属性を持ったご家老になっています。