「嫌だ」 「ねぇ、嫌だよ」 「さよならって、何?」 「やだよ、ずっと一緒に居たいよ」 「どうして?」 「お願い、もう我儘言わないから、」 「構ってくれなくても我慢する、野菜も好き嫌いしないから」 「だから、お願いだよ」 「‥‥‥傍に居て、ください」 一人、さくり、雪を踏んだ。黒いマフラーをまいて、手袋を嵌めて。しんしんと積もる雪の上を歩く。時折吐く息が白い。 まるで一面の雲の上にいるような、錯覚。音は確かにするけれど、踏み心地はふわふわとしていた。足の先の感覚が無い。靴に溶けた雪が染み込んだみたいだ。早く帰ろう。誰も居なくなった家に。 後悔なんてしていないと云えば嘘、だ。でもこの結末は結局は自分で築いたものだから、受け入れるしかない。どうせ世界はいつか終わるんだ、大丈夫。 きみと『さよなら』をした時、もう会えないんだって分かってた。こっちだって馬鹿じゃない、それくらいは分かるよ。自分も一緒に連れていって欲しかったけど、きみがそれを望まなかったから諦めた。だってきみが決めたこと、口出しは出来ない。意味の無い抵抗はした。でも、きみの意志だもの。こっちは受け入れるしかないじゃないか。ねぇ、そう思うだろ? さくり、進む。早く、早く。帰りたい。独りは寒い。独りは寂しい。きみのところへ行きたい。独りは痛い。独りは悲しい。独りは、独りは独りは独りは。 苦しいくらいきみを想っているのに、どうせきみには届かない。馬鹿みたい、自嘲的に呟いて空を見た。ああ、この前見た時はあんなに青だったのに。今はなんて、暗い色なんだろう。手を伸ばしたら空を掴める気がして、虚しく何も掴めない腕を動かす。なんて滑稽だ、どうせなら雲のひとつでも掴んでみたかった。 未だ終わらないこの世界でまだ自分は足掻く |