「みのー、いずもー」
眠そうな声が体を揺らした。出雲くんはまだ爆睡しているので僕が起き上がってなぁに、と声のした方へ行く。
「朝ご飯はお昼ご飯と一緒に置いてあるから勝手に食べて」
そう言って珈琲を啜る暦ちゃんは僕の頭を撫でて薄く笑う。いつも先に起きるのは美濃だね。うん、暦ちゃんをお見送りする役だもん、また笑って暦ちゃんはコップをシンクに置いた。
今日は三時には帰って来るけど、この前みたく大学には来なくていいからね。危ないでしょ。そう言って暦ちゃんは出かけて行った。背中に手を振ってベッドに戻る。
僕から言わせれば暦ちゃん一人の方が危ないのに。でも暦ちゃんの言うことは聞くよ、だってそれは当たり前のことだから。僕と出雲くんを見分けてくれた暦ちゃんの言うことは、呼吸をするように絶対だと思っている。そう言ったら出雲くんもうん、と頷いていた。
暦ちゃんが選んでくれたシーツにくるまる出雲くんを軽く撫でて、僕もごそごそと出雲くんの隣にくるまった。あったかい。
暦ちゃんの朝は早い。今日は特別早くて、まだ時計の短い針は五を指していた。もう少し眠ったら、出雲くんと一緒に朝ご飯を食べて、今日は何して遊ぼうかな。
♂♀♂♀♂♀
「あ、美味しそう」
「どれ?」
「この左のやつ」
「ホントだ、美味しそう」
テーブルの上に乗っていた紙束を眺めていたら、おむらいす、という写真の食べ物があった。この紙束は灰色の文字がたくさん書いてあるやつと、きれいな写真がいっぱい載ってる紙がぎゅっと挟んである。暦ちゃんが破らないなら見てもいいとお許しをくれたので最近の暇潰しのひとつだ。
テレビの横に置いてある辞書でおむらいす、を探してみた。白米をケチャップと絡めたものを、薄く焼いた卵でとじた食べ物。ふむ。適当な辞書だな。ぱたんと辞書を閉じて決めた。
「今日の晩ご飯は、おむらいすを作ってもらおう」
「さんせーだ、姉ちゃんに頼んでみよう!」
百聞は一見にしかずだぞ、と出雲くんが踊っていた。よくわからない踊りだった。
♂♀♂♀♂♀
「オムライス?」
「うん、この辞書に載ってたやつ!」
「この紙に載ってるやつ!」
宣言通りに暦ちゃんは三時に帰って来て、お帰りと言った後におむらいすを食べてみたいと言った。
そしたら暦ちゃんはちょっと考えて、スーパーに行こうと立ち上がった。僕らもぱたぱたと付いていく。やったね、作ってくれるって! 嬉しくてクスクス二人で笑ってたら暦ちゃんが右手は出雲くん、左手は僕と手を繋いでくれた。こっそり目配せして、今日はいつもより別段いい日だね、そう互いの瞳が言っていた。
お部屋もお風呂もベッドも狭いけど、暦ちゃんと出雲くんがいれば僕はお母様の家に帰らなくても幸せだなぁと思った。二人ともそうだといいな、あったかい指を離さないように握りしめた。
とある少年の最高愛