満月の夜、真っ赤に輝く月を誰もは一度は見たことがあるだろう。これはほんの一部のマニアックな人間しか知らないことだが、こういう夜は月が茨に巻かれて赤く血だまりを作っているのだ。秘密だ。これは秘密にしておいておくれよ。でなければ私はマニアックな友人たちからしょっぴかれてしまうからね。さて、月の話に戻るが、こんな夜にはワイングラスを持ってその月の真下にかざすのだ。そうするとあっという間に月の血液がワイングラスに溜まる。まろやかな風味を持ったそれは、晩酌に丁度良い。これを少しずつビンに溜めて、後で飲もうと試作した友人がいたが、あとになるにつれ臭みが増し、膿のような液体になり、悪臭を放つそうだ。それはお気の毒様。それを飲んだ彼がどうなったか、それから先は秘密だ。秘密にしておいておくれよ。でないと彼にしょっぴかれてしまうからね。代わって私は優雅な一晩を満喫するとしよう。ちなみに茨に巻かれた月はどんな天体望遠鏡を用いたり、月面着陸しても目視することは叶わない。ある種の次元の違う茨に巻かれているのだ。それから先は秘密だ。秘密にしておいておくれよ。でないと天文学者たちににしょっぴかれてしまうからね。言ってしまえば茨という表現も我々同志たちの比喩に過ぎないのであるが、今のところはこの総称を用いようと思う。ささやかなひとときを満喫したらワイングラスは丁寧に洗わなくてはならないなぜなら血を飲むという行為は一般的ではないからだ。独特の芳醇な味わいは一滴残らず堪能したいところであるが、そうなると大口を開けて空を眺めながら待たなければいけないし、もしも気管支にでも入ったりしたら、それこそもったいないことになる。

ある日、月の茨が取れてしまったと同胞から電話で連絡が入った。何でも我々の反対組織【月を保護する会】なるものが茨の除去に成功したらしいのだ。私はがっくりとうなだれて、茨をもう一度再生できないか、考察したが、いかんせん正体不明の茨であったため何を考えても、机上の空論でしかなかった。長い間、ミネラルウォーターを片手に構想にふけっていたせいか、尿意を催し、便所へと向かう。その扉を開けた瞬間のことだ。あの月の血の匂いがするではないか!私は室内のある一角に手を伸ばす。それから先は秘密だ。秘密にしておいておくれよ。でないと家内にしょっぴかれてしまうからね。
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