疾走する乳母車はどこまでも細い通路を走っていた。乳母車の後ろからはバタン、バタン、バタン、と次々に頑丈そうな扉が閉まっていく。下手をすれば乳母車が扉と扉の間に閉じ込められるか、最悪の場合扉が閉まる瞬間にその乳母車が間にあればそれは簡単に潰されてしまうだろう。これは実験であった。被験者を乳母車に載せ、どのくらいのスピードが最高速度なのか計測するためのものである。本日の計測は5回目、そろそろ扉と扉が閉まるギリギリの瞬間を乳母車が通過する、といったレベルでだ。どこまでも続きそうであった通路もあと少しのところまで来た。もう乳母車の車輪は限界をむかえ最後の扉をくぐり抜ける瞬間に崩壊した。衝撃で前に飛ばされた被験者を老年の男性が受け止める。実験は成功だ。ここまでのスピードが出せるとは、これは危機回避をいとも簡単にできる速度であるぞと男性は笑っていた。抱きとめられた被験者もまた楽しそうにキャッキャと笑っていた。被験者は最初から最後まで笑っていた。それは新しい玩具を与えられているかのように。男性は、流石は我が孫、さあ扉の速度を最大にしてもう一度計測してみよう。そう、被験者とは紛れもなく老年の男性の孫であった。さあ、車輪を取り替えて、おお、楽しそうに笑っておるわ。お前もこれが気に入ったか、ならばすべての赤子にも喜ばれることだろうな。再度実験が行われた、扉の閉鎖速度、乳母車の走行速度、共に最高である。ジリリリリというベルのあと実験は開始された。バタン、グシャリ。最初の扉で乳母車は扉に挟まれて完全に崩壊した。重い扉の隙間から赤子のギャッギャという声が聞こえている。ギャッギャ。
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