どうにもならないトラブルが会社で起こり、その責任を僕に押し付けられ、相手先に平謝りを済ませた後の事だ。戻ると会社は昼休みの時間で同僚たちはのんびりと昼食を取っていて、酷く憤慨した。オフィスに居るのも嫌で、食欲もない僕は会社の近くにある噴水広場へと足を運ぶ。広場はお昼時であるせいかとても賑わっていて、何も考えずに雑踏の音を聞いている分には、なんだか少し落ち着いた気分にはなる。噴水のヘリに腰を下ろし、携帯の電源を切ってしまう。本来ならば休憩中でも電源は入れておき万が一の事態に備えるものなのであるが、その万が一が先ほど終えたばかりなので、何が起きようとも断固として処理しない心待ちでいた。僕に繋がらないのなら、他の今頃のんきに昼飯をかっ喰らっている同僚共が行けばいい。ふと噴水から離れた花壇の奥に白い影がゴソゴソと動き回っている。ここは公園の様な場所でもあるし、誰かが放した犬か何かだろうとさして気にも止めるつもりは無かったのだが、何だかその白い影が気になって花壇を踏み越えて白い影に近づいてみる。そこにはやはり一匹の犬がいて自分の尻尾を追い掛け回して遊んでいた。なんだ、特に気に止める必要も無かったと踵を返そうとした瞬間に目の前がぐらりと傾いてそのまま後ろ向きに倒れ込んでしまった。低血糖かストレスかもしれないとなぜが冷静でいられたのは倒れ込んだ際痛みを感じ無かったせいで、それはなぜかというと先ほどの白い犬を僕が下敷きにしていたからである。起き上がると重みで犬は圧死していて赤い赤い目の玉が飛び出し、口からは臓器が見え隠れしていた。その時の僕はその犬の赤い目に注目した。圧死によるものではなく天性の赤眼のようだ。珍しい犬に助けられたものだと。黙祷してからすぐにその場を後にした。飼い主に因縁でも付けられたらたまったものではない。会社に戻ると上司が激怒していて、他の取引先でもトラブルがあり、僕に連絡を付けようにも一向に繋がらなかったと言われた。すぐに向かえと言うので、洗面所で身支度を整えると、鏡には赤い目をして職務に圧死されそうなさえないサラリーマンが映っていた。口から臓器がはみ出していないだけマシだ。
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