僕は昔からどうも風船というものが苦手である。一番嫌なところは、誤って手を離すとするりとあっという間に空高く舞い上がってしまうところだ。勢いよく空に消えていく様が、何故か異様に恐ろしかった。もう戻っては来ないのだと。悲しくもなった。次に嫌いなところは、放っておくとしわくちゃの何ともみすぼらしい姿になるところだ。こうなると大抵は捨てられてしまう。そうなっては何だか、申し訳無いような気がして、小まめに息を吹き込んで形を保ってやっていた。ここで一つ良いことは僕が息を吹き込んでやれば、手を離しても空高く消えてしまうことがないのである。今、僕の手元には三つほど風船があり、今日は一番古い風船に息を吹き込んでやらなくてはならない。あっという間にしわくちゃになってしまうものだから僕は一番気を使う。勢いよく口をつけて空気を送り込む。ああ、なんてことだ、送り込んだ空気か多すぎたらしい。古い風船は弾けてしまった。仕方がないので捨てることにしよう。手をかけすぎてもいけない何てデリケートなモノなんだろう。一つ壊れてしまったから新しい風船を探しに行こう。駅前に行けばまあ何とか一つくらいは手に入るだろう。めかしこんで出掛けようとする僕を見て先程の壊れた風船が、あんたなんかと付き合わなきゃよかったと見苦しい姿で叫んでいた。
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