妻が騒いでいる、と私の職場に連絡が入ったのはその少年を保護した後の事で、確かに妻は、日頃情緒不安定な面はあったが、深刻なものではなかったはずだ。すぐに現場に向かった私の目にしたものは赤子の様に泣きわめく彼女の姿であった。私が声をかけても全く意味をなさず、手足をばたつかせている。すぐに検査入院となったが、医者は人格障害ともなんとも分かりませんなあ、と頼りない返答しかしなかった。別人のようになってしまった彼女だが、今でも愛していることに違いない。またゆっくり二人で始めればいい。少し痩せた白い手をそっと私の両手で包み込むと、妻はそれに純白の笑みで返した。
- ナノ -