その時、私が与えられた力は不思議なものでした。他人と意識の交換が自在に出来る。というなんとも使い勝手のありそうな素晴らしい力でした。私はすぐさまに街で見かけたとても見た目のよろしい女性と意識を交換しました。元私は何が起きたか分からずあたりをキョロキョロしてました。元私にはもう未練など無かったのでそのまま新しい私は別れを切り出された恋人の元へ参りました。この姿なら愛してくれると思ったのです。恋人はただ一言「小さな頃から女を信用していなかった。お前との交際で再認識した。」私は悲しくてその場を後にしました。元私を探したのですが、見つかりはしませんでした。それから幾年も時間が過ぎました。別の男性と結婚もしましたが、私の世界はとても空虚でした。美しかった私の新しい体も皺が見え始めてきたときです。街をすれ違った親子連れに会いました。女性は赤ん坊と小さな少年と手を繋いで歩いています。それはとても当たり前のとても幸せそうな光景でした。私は心の中で一度だけ謝罪をして赤ん坊と意識を交換いたしました。赤ん坊の意識がうつって白痴のようになった元私をうすぼんやりと腕の中で見たのが最後です。家に帰ると女性は豹変して私を床に叩きつけました。「私の人生は滅茶苦茶なのよ!いきなり冴えない女の体になって冴えない男の子供を産んで!幸せな家族を演じるのなんてもう懲り懲りよ!」ああ、元私と再会できました。ですがもうその時の私の意識は交換できるほど残っておりませんでした。さよなら私たち。
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