いつだって私はマニュアル通り、家族に接してきたのだ。妻には日頃の家事や育児の感謝を忘れず、愛していることを素直に伝える。結婚記念日や誕生日は欠かさずプレゼントを贈り、祝うのだ。だがしかし、妻は今、ネットでであった若い俳優志望の男に随分と入れ込み貢いでいるようだ。貢ぐ金の出先は私の労働賃金からだというのに。この場合の対処方法は…。サポートページには載っていないな。直接の問い合わせをするしかあるまい。我が一人息子にこの旨伝え、私がどうにも苦手なメールでの問い合わせの仕方を訊ねた。メール機能は仕事でも使うが何故か今、パソコンがインターネットに繋がらないのだ。息子はちょっとまってね、と分厚いパソコンのマニュアルを取り出して言った。こういう分厚いマニュアルって困った時しか読まないよね。なるほど、最初に読破してしまったことはあまり良くなかったのか。いやしかし、マニュアルを読破してしまった際の対処方法のマニュアルはあるのだろうか。後程、息子にミツリンとやらで検索してもらうことにしよ
う。息子はパソコンのマニュアルの他にもうひとつ、薄っぺらいマニュアルを取り出して読んでいる。題名は"あなたの父がもしも"何か困っているのか、息子よ。本棚に目をやれば夫との付き合い方のマニュアルが封の切られていない状態でならんでいた。
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