べちゃっと言う音が聞こえて私の頬が生暖かくぬめりとした感触を覚えたので、ああ、何か投げつけられたんだなあと、地面に落ちた物体を観察した。毒物では早急な手当が必要であるし、場合によっては警察に届けなければなるまい。それは一番身近なものに例えるとするならば「金目鯛の切り身」だ。赤い皮膚と鱗に覆われていて反対側は白身の部分が露出している。金目鯛ではない確証は鱗と皮膚の硬さと白身の部分のたんぱく質の質感が明らかに異なっている。誰が投げつけたのかと辺りを見渡しても猿一匹見当たらないし、頬は問題なく腫れてもいなければかぶれてもいなかったのが幸いであった。さて、この物体だが見た所、爬虫類に属する生物の切り身であることに見当をつけた。だんだんと空気に触れて酸化し始めたのか赤かった表面は黒く変色してきた。赤い爬虫類ならこの辺りでは珍しい部類に入るだろうが、黒い爬虫類とあってはそこら中にいそうな気がする。段々と興味が薄れてきたので、その場を後にしようとかんがえていると、ささささっと何かが横切って切り身を咥えてしまった。まだら模様の大きな猫だ。まだらは切り身をその場で咀嚼すると私に向かってこう言った。「あぶないあぶない、あんたこれを食っちまったら不老不死になって死にたくても死ねない体になるところだったよ。こわいねえええ。神様はこうやって気まぐれで人間に悪戯をしかけるんだからさあ。」お前は不老不死ていいのかと問えば、とっくになってるよお。と、にんまり笑っていた。その尾は三又に分かれていることに気がつくのは後ろ姿を見た時で、拾い食いはするつもりは毛頭無かったよ、と声を掛けておいた。ふと空を仰いで、上では酒盛りでもしているんだろうかと思いに耽り、今晩の夕食は金目鯛の煮付けにしようと魚屋へ足を運ぶ。未練たらしいだろうか。
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