コーヒーに沢山のミルクをいれながらスプーンでそれをかき回す元々のそれがエスプレッソだったためか、普通よりも白と黒の混ざり具合がくっきりとしている。彼女が砂糖のフタを閉じたり開いたりしているのでが、どこかその目は上の空だった。空から引き摺り下ろす為に「お砂糖いらないの?」と話しかけると「お砂糖は、愛情と似ている。多すぎても美味しくないしい、少なすぎたら飲めたものじゃないわ。」彼女は続ける「あんなにお砂糖を入れたのに、こんなにまずくなるなんて、これだけお砂糖を入れなかったんだから、さぞかし深みのあるものになっているだろう。期待されてもコーヒーは困るし自己責任だと思うのよね。」結局砂糖を入れないで飲もうとしたので、じゃあ僕がいれてあげるよ。と二つ角砂糖をいれてあげた。彼女は一口それを飲んで「もともとエスプレッソを頼んだのが良くなかったみたいだわ。」と笑っていた。「もっとお砂糖を頂戴な。不味くなったら貴方のせいよ。」はいはい、女王陛下。お砂糖なら僕がいくらでもご用意致しましょう。だが、それを美味しいか感じるのは貴方次第だ。不味さはもともとのコーヒーでもミルクでも砂糖でもない、この味覚は貴方だけのもの。だからこそ。だからこその苦悩なんでしょう。
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