カチカチカチカチ。音を立てているのは私の震える口内であった。暗闇にじっと身を潜め、気配をうかがう。見つかってはおしまいなのだ。真夜中、何者かが私の家に侵入したのは一時間ほど前だったか、幸か不幸か厠に起きていた私は気配に気付き身を潜めた。強盗だ。と直感した。寝ている家族の部屋から、空気を絞り出すような音や、濡れた布を引き裂くような音が聞こえる。何の音かなど想像したくもなかった。カチカチカチカチ。時計の秒針の音がやけにうるさい。 緊張状態が続いているせいで、音に過敏になってしまう。カチカチカチカチカチカチカチカチ。音が二つ重なって聞こえ始めた。部屋にある他の時計の音まで聞こえているのだろう。カチカチカチカチ。何故か音が一つになった。カチカチカチカチパチパチパチパチカチカチカチカチパチパチパチパチカチカチカチカチパチパチパチパチカチカチパチパチパチパチパチパチ
辺りが燃え始め、二つ目のカチカチが時計の音では無かったことにようやく気がついた。
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