唐突に彼が、カッターナイフでかさぶたを削り始めたので、やめてよ。と文句を言ったのだが、後で刃は替えるからといって聞き入れてはもらえなかった。患部に届かないギリギリの部分をしゃりしゃりと削る姿は何か創作活動をしている芸術家の様にも見える。死んだ細胞だから、削ってあげたほうがいいんだ。出っ張っているとそこに引っかかって剥がれたりするし、そっちのほうが治りが遅くなっちゃう、爪切りと同じだよ。刃に付いた死んだ彼の細胞をティッシュペーパーで拭き取りながら彼はいう。こぼれ落ちた部分はあらかじめ敷いてあった新聞紙に落ちていたのでそれを丸めてゴミ箱に放った。刃の摩擦で赤黒かった患部は白っぽくなっていて、本当にうまく削れている。リンゴでも食べよう沢山もらったから、と彼が台所に立ったので、皮は剥かないで切って頂戴ねと、お願いしておいた。だって皮はとっても美味しいもの。今の私の視線がリンゴには全く向いていない事、それは神しか知らない。
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